軽井沢の実家に帰省した時の話。

実家と言っても古臭い家とかじゃなく、十六年くらい前に建て替えた結構見かける洋風の一戸建て。
建て替えたのは一人暮らしを始めてすぐだったから、たまに実家に帰ってもあまり自分の家という感じがしなかったことを覚えている。
で、盆ということもあり、実家の両親に顔見せ程度に寄ろうかな、と思ったわけ。
日帰りでね。

盆休みに入る朝、すぐ実家に向かい家を出た。
着いたのは昼過ぎくらい。

両親に事前に連絡していなかったのが災い。
家に誰もいない。

その場で連絡してみたけれど、帰るのは夜の八時前後になるとのこと。
まあせっかく来た訳だし、ということで、家の前で待機しながら適当に携帯を弄り時間潰し。

軽井沢って避暑地みたいなイメージがあるけど、やっぱり夏は暑くて、正直きつかった。

辺りが段々と暗くなる頃に、予定より早く、両親は帰ってきた。
笑顔で近づいてくる二人を見ると、なんとなく、帰って来て良かったな、と思えた。

その後、夕食を食べて帰ろうと思っていたのだけれど、両親の強い要望で結局その日は一泊することになってしまった。

夕食の後は、両親との会話を楽しんだ。
父は定年退職の後、母とは仲良くやっているとか、いろいろと、近況について報告しあった。

ようやく両親から解放され、床に着いたのは一時過ぎ。
その日は何をしたという訳でもなかったけれど、妙に疲れが溜まっていたようで、見慣れない天井を意識しながらも、すぐ眠りにつけた。

目が覚めたのは、四時過ぎ、天井からの物音だった。
何かが這うような、引き摺るような音が上から聴こえる。

実家は二階建て。
今寝ているのは二階のゲストルーム、父や母は反対側の奥の部屋、つまり、音は天井裏からということになる。

恐怖の中、そんなことを考えている内に、音は止んだ。
しかしそれ以降、両親の所へ行くこともできず、天井を凝視したまま固まっている内に、一睡もすることなく、朝になってしまった。

陽の光りが差し込みだす頃になり、ようやく両親の所へ行き昨夜の出来事を説明した。
すると父も母も、「やっぱり出たのか」と、口をそろえる。

詳しく聞いてみると、なんでも建て替えた時からの現象であるが、特に悪さをするわけでもなく、両親曰く、ほっといた、らしい。
この時はさすがに、両親の神経がすごいと思いました。

その後知ったことを列挙すると、二階の天井裏は現在、物置になっている。
這いずりだしたのは建て替えてすぐ。
稀に昼にも音がする。

天井裏へは月一で掃除にいくが、別段変っている所は無い、とのこと。
この時まで天井裏が物置になっていることすら知りませんでした。

程なくして恐怖が薄まったのか、天井裏を見てみたいという欲求が込み上げて来ました。

元来、好奇心は旺盛な方であり、こうなるとどうしようもない。
是が非でも覗きたくなる。
その後、両親に断ることもせず天井裏へと続く階段を下ろし、先程までの恐怖はどこへやら、スタスタと上って行ってしまいました。

今にして思えば軽率な行動ですが、あの時は不思議とそう思わなかったのが怖いところです。

天井裏の印象は以外に明るく、掃除されているだけありキレイだということ。
そして、何といってもスペースが広い。
三分の一はダンボール箱で埋まっているのに、それでも大人四人が大の字で眠れるほどの広さがある。

そうやって、しばらく感心したように見回す、しかし他にこれといって変わった物は確かに無い。

好奇心を満たせず、少しがっかりして肩を落とす。
特に何かを期待したわけではないけれど、こんなものかと思い、階段に戻る。

すると突然、ドン!とダンボールを叩くような音が響く。
瞬間、心臓が引っくり返るような感覚に襲われる。
その場で身体を硬直させ、音のする方を凝視する。

ダンボールの山に変化はなかった。
ただ一つだけ、封が切れて開いている箱があった。

逡巡の後、恐る恐る箱に近づく。
いつでも階段に向かいダッシュできるように、体勢を整え手を伸ばしてゆっくりと箱を開く。

僅かに開いた隙間から覗き込むと、そこに入っている人形と眼があった。

人形は西洋風のもので、見覚えがあった。
手に取り眺めると次第に思い出してきた。

しばらく観察してみると、それが子供の時のお気に入りで、よく遊んでいた人形だというのが分かった。

人形の入っていた箱には他にもおもちゃが沢山入っていた。
その場に座り込み、懐かしいそれらを一つ一つ手に取り、眺めた。
しばらく感傷に浸っていると、あることに気が付いた。

あの人形が消えている。

途端に恐怖が湧き上がる。
辺りを見回し人形の姿を探す。

そして背中に違和感があるのに気付く。
恐る恐る背中に手をやると、指先に先程の人形の感触が伝わる。

瞬間狂ったように身体を揺らせ、人形を振り解こうともがいた。
だが勢い余って正面から転倒、腰が抜けて立ち上がることも出来ない。
背中の人形が這い寄って来るのを感じて、もう駄目だと思った時、母が来た。

「うるさいから何をしてるかと思ったら、人形遊びだなんて」と困った顔をした後、「昼食出来たから、下りてきなさい」と言って、下りて行ってしまった。

その後、冷静に背中の人形を掴むと簡単に外れた。
もちろん動かない。
後はもう昼食を食べてすぐ家に帰るだけだった。

しかし問題が一つだけ起きた。

あの人形とおもちゃ一式を母に持たされたことだ。
母はどうやら人形と遊んでいると勘違いしたらしい。

襲われたといっても、照れ隠しみたいな感じで受け取っている。
仕方なく、人形は連れて帰ってきました。

途中、捨てようかとも思いましたが、怖くて出来ません。
そんなこんなで、人形は今、家にいます。
あれ以来動かないので、少し安心しています。

ただ、人形の計画通りっぽいのは気のせいですかね?
それがとても怖いです。