《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.32)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「安倍首相のニコ生でコメント削除の言論統制」

日付
5/6
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2.8万RT
内容
安倍晋三首相が出演し「ニコニコ生放送(ニコ生)」で5月6日に生配信された番組に関連して、「運営により削除」という文が並んだスクリーンショットとともに、「安倍晋三のニコ生凄いな 言論統制そのものやんけ」としたツイート。
引用

アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)

【検証】生放送ではなく録画動画 削除は荒らしコメントか

投稿はジャーナリストの岩上安身氏が引用(削除済み。キャッシュ)するなどして拡散した。

ニコ生などのサービスを展開する総合サイト「niconico」のTwitter公式アカウントは、この件に関し以下のように投稿し、安倍首相が出演した生放送でのコメント大量削除を否定した。

つまり、そもそも大量のコメント削除が行われたのはニコ生ではなく、同じniconicoの下にある動画投稿サービス「ニコニコ動画(ニコ動)」で配信された別の録画放送動画ということである。元投稿のスクリーンショットはニコ動のコメントを記録する外部サイト「ニココメ」からのもので、ニココメではニコ生のコメントは記録されない。

削除されたコメントを見ることはできないため、ニコ動で削除されたコメントが本当に規約違反の「荒らし」的なものだけだったのか、ニコ生の方でコメント削除があったのかなどを、ユーザー側が確認することはできない。しかし、実際に削除が行われたニコ動の動画を見ると、首相に批判的な内容のコメントはかなり辛辣なものや罵詈雑言レベルのものまで今も削除されずに大量に存在していることが分かる。J-CASTねとらぼの記事も参照のこと。


(2)「マスク相場落ちるところまで落ちた」

日付
5/6
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.9万RT
内容
65枚入り1箱327円(税込)のマスクが山積みで販売されている写真とともに、「近所のイオンなんだけどマスク相場落ちるところまで落ちたね。」とする投稿。
引用

【検証】過去の画像

上掲の投稿はあたかも現在のマスクの販売の様子のように見えるが、画像は少なくとも1月末から存在しており、現状を表しているものではない。

実際の撮影日時は不明。時事通信によると、マスクの売上高のピークは1月下旬であり、品薄になる前の可能性もある。また、撮影場所が投稿者の言うようにイオンなのかどうかも定かではない。


(3)「山梨県の感染判明後帰宅した女性の勤務先」

日付
5月上旬頃~
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter、まとめサイトなど
拡散数
Twitterで最大約900RT
内容
帰省先の山梨県で新型コロナウイルスへの感染が確認された後に高速バスで東京都内の自宅へ戻った女性について、紅茶専門店「マリアージュ フレール」を勤務先として名指しした複数の投稿。

【検証】名指しされた会社が全面否定

都内を中心に複数店舗を構える紅茶専門店「マリアージュ フレール」は、「事実無根の情報」「当社関係各位に新型コロナウイルス感染者は確認されておりません。」などとして噂を否定した。

感染者の個人情報を晒し上げる行為に対しては、山梨県も人権侵害として強く抗議。こうした「ネット私刑」に対しては、民事・刑事上の責任を追及される可能性も指摘されている(参考:弁護士ドットコム)。


(4)「大分県の感染者が暴言をはかれ自殺」

日付
4/21
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2万RT
内容
「隣の県の40代のコロナ患者が亡くなりましたた。大分県で感染し、自宅に帰り妻、子供にも感染 自宅に落書きされ、コロナで咎められ、暴言をはかれ自殺したそうです。」などとする投稿。(削除済み)

【検証】当該人物は健在

毎日新聞の取材によれば、現在山口県内に住むこの感染者は自殺などしておらず、落書きや張り紙の嫌がらせも事実ではないという。勤務先の担当者は「感染したこと以外は、全てデマ」と答えている。

同記事によれば、同様に千葉県佐倉市や高知市でも「感染者が自殺した」という噂が流れたが、感染者ではない、あるいは自殺していないことが判明している。


(5)「ポプラの綿毛 意図的に燃やして火事の原因を取り除く」

日付
5/8
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
6.3万RT
内容
海外ユーザーの動画付き投稿を引用し、「一面に散ったポプラの綿毛を燃やす様子。ポプラの綿毛は非常に燃えやすいので、こうやって意図的に燃やして火事の原因を取り除くということらしい。」などとする投稿。
引用

【検証】意図的なものではない

スペインの代表的な新聞である「EL PAÍS」の記事によれば、この動画が撮影されたのは同国ラ・リオハ州のカラオラという市にある公園。取材に答えた地元の消防士は、この綿毛は空気を含んでいて非常に燃え広がりやすいが、自然に発火することはほぼ無く、火は多くの場合タバコの不始末などで人為的に起こると述べている。

この時期には綿毛が燃える火事が頻繁に発生するが、そのたびごとに消防が出動して消火している。動画がネット上で拡散して以来、出動はかえって増えているという。火が近隣の農場などに燃え広がった事例もあり、消防は綿毛を燃やして遊ばないよう注意を呼び掛けている。

また、カラオラ市の市長も、綿毛の火はコントロールされているわけではないと説明。スペインのファクトチェックメディア「Maldita.es」も、市や消防局から同様の回答を得ている。


(6)「ゴリラとの自撮りで話題になったレンジャーが殺された」

日付
5/6
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
4000RT
内容
海外ユーザーの投稿を引用し、「ゴリラ自撮り」で話題になった人物について「彼はゴリラを密猟者から守るレンジャーだったが、彼を含む12人が急襲され、殺された」とする投稿。
引用

【検証】「自撮り」とは別人

上掲の写真でゴリラと共に「自撮り」しているのは、コンゴ民主共和国のヴィルンガ国立公園で密猟を監視するレンジャーとして働くMathieu ShamavuさんとPatrick Sadikiさんで、2019年4月に撮影された。

4月24日、同国立公園でレンジャーらが武装勢力に襲撃され亡くなったことも事実である(参照:IUCN(国際自然保護連合))。

しかし、同国立公園の公表した亡くなったレンジャー12名と運転手1名の名前の中には、上記の2人は含まれていない(この他に民間人4名が死亡。死者数は報道によって異なる)。ICCN(コンゴ自然保護協会)Twitter公式アカウントも、Mathieuさんについて「犠牲者の一人か?」という質問に対し、「いいえ、Mathieuは元気です」と返答している。

上掲の投稿者は「写真に写ったこの2人は亡くなった12人には含まれないそうだ」などと訂正している。


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでも、新型肺炎関連の様々な誤情報についても検証を紹介している。

 

(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年5月20日の予定です)

 

※この記事の調査には、FIJのリサーチャーである八木風香氏が協力した。

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。