自動車の電球が幻のキノコになった?---大井川電機のチャレンジ

ホホホタケ
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100年に一度の変革と言われる自動車業界、さまざまな変化がさまざまな場所に訪れている。自動車用電球を製造・販売する大井川電機製作所(本社:静岡県島田市)は1月18日、シンガポール、香港、マレーシアへ、同社が生産する“幻のキノコ”はなびらたけ「ホホホタケ」の輸出を開始したと発表した。

大井川電機では1967年の創業以来、国内外の自動車メーカーに、ウィンカーやテールランプ用などの照明用電球を月間約1000万個生産・販売し、累計約50億個の電球を出荷、近年は年間約20億円を売上げてきた。

その大井川電機が新規事業として開始したホホホタケの生産・販売は、2021年9月までに月間1万パック(80g/1パック)に達し、現在は約3万パックに増産、2022年度末までには約6万パックに拡大する見込み。スーパー、料理店、カフェ、給食などでの採用が進んでいる。輸出は毎月計約400パックをアジア三か国向けに開始したもので、シンガポールでは日本料理店、マレーシアではフランス料理、香港では高級食材を取り扱う「City'super(シティスーパー)」で、ホホホタケが取り扱われる。

香港のCity'superが販売するホホホタケ香港のCity'superが販売するホホホタケ

大井川電機がホホホタケのブランドで栽培・販売するはなびらたけは、標高1000メートル以上の高山で自生し、採取することが困難なため「幻のきのこ」と呼ばれる。見た目は白い花びらのようで、長く加熱しても食感が残り、フリルも形崩れせず、免疫機能を促進するベータグルカンが多く含まれる。すき焼き、アヒージョ、炊き込みご飯、天ぷら、鍋、サラダなどで使用される。

昨今、世界の自動車産業は急激に変化し、自動車の多くの部品が入れ替わり、部品を生産するサプライヤーにも変革が求められている。大井川電機では、自動車電球の発光ダイオード(LED)化に伴い、売上が減少傾向にあったため、自動車産業で長年培ってきた電球製造の厳格な品質管理と生産体制のノウハウを活かした新規事業への参入を検討し、2015年からはなびらたけの栽培方法の研究を開始した。

新たな中核事業を立ち上げるために、社内では電球にとらわれない事業を模索、アイディアを募る新規事業検討会を定期的に開催した。そこで出てきたアイディアは、静岡ならではのお茶、大井川の地を活かしたわさびや、チョウザメ、トラフグ、ナマズの養殖、学習塾、介護などあらゆる方面にわたったという。

大井川電機の落合生産拠点大井川電機の落合生産拠点

そんな中、当時の総務部長からはなびらたけのアイデアが出た。はなびらたけは市場にはほとんど出回らず(競合がない)、栽培が難しい(技術者としてチャレンジの面白さと達成感がある)こと、電球事業から培ったノウハウが活かせると考えられ、2015年から、それまで電球に携わってきた技術者たちがはなびらたけの人工栽培を開始した。

はなびらたけの温湿度管理、二酸化炭素濃度のコントロール、雑菌繁殖予防などの研究を重ね、2018年に独自の栽培ノウハウを確立、市場にはなびらたけを安定供給できるような体制を整えた。2015年から川根生産拠点(島田市川根町)で栽培を開始、さらに総額2億円を投じて落合生産拠点(島田市落合)を開設、2020年8月に稼働を開始するとともに農業事業に本格参入した。落合は川根の約10倍にあたる月間最大6万パックのはなびらたけの安定出荷が可能だ。延面積1300平方メートル、はなびらたけの菌床生産設備、接種室、栽培室、収穫室、冷蔵庫などで構成される。

また2021年2月、はなびらたけをブランド名「ホホホタケ」に刷新、新たなウェブサイトも開設し、ブランド戦略も強化した。「はなびらたけは食べた人々を“ホホホ”と笑顔にする」を理念に「ホホホタケ」と名付けた。根部分の花托(かたく)は「ホホホの子」とされた。

大井川電機の自動車電球大井川電機の自動車電球

大井川電機では、品質、安全衛生、納期遵守を重視しながら電球の生産管理を行なってきた。同じノウハウを活かし、ホホホタケ栽培においても衛生・温湿度・手順・品質・発送などの管理基準を設け、天候や農作物の生育環境などに左右されることなく、一年を通じての安定供給を可能とした。そのため、市場、仲卸業者、食品スーパー、料亭などから評価されているという。

2018年度に150万円だったホホホタケ(当時ははなびらたけ)の売上は、2020年度に2000万円弱まで伸び、2021年度の売上は3000万円を、2022年度で1億円の売上をめざす。2025年までに売上高を10億円に引き上げ、中核事業になることを期待している。

1967年創業の大井川電機製作所は、電球製造を基本の事業として、クリスマス球の製造から始まり、懐中電灯、自動車の小形電球を製造・販売し、照明部品を国内外の自動車産業に供給してきた。2020年、新たな事業としてはなびらたけの生産・販売を本格的に開始した。従業員数:130人(2022年1月現在)。

ホホホタケの調理例ホホホタケの調理例
《高木啓》

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