【そもそも解説】フランス大統領選の争点は ウクライナ侵攻下の選択

そもそも解説

パリ=疋田多揚
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 ウクライナ侵攻で欧州が大きく揺らぐ中、フランス大統領選が始まりました。選挙の争点や仕組みを解説します。

Q:フランス大統領選が始まっているね。

A:フランスにとって今回は、同じ欧州大陸で戦争が起こっているさなかの異例の選挙です。とりわけ、現職のエマニュエル・マクロン氏(44)は、ウクライナに侵攻しているロシアのプーチン大統領と、2月以降に15回以上、電話などで会談を重ねています。戦争を仕掛けているロシアに、フランスはどう向き合うのか。自国の経済を犠牲にしたり、ロシアを刺激したりするリスクを負ってまで、ウクライナを支援すべきなのか。国の大きな指針を決めることになります。

Q:何が争点なんだろう。

A:有権者の一番の関心は購買力。つまり、賃金や税金といった問題です。ロシアがウクライナに侵攻してから、食べ物やガソリンの値段がどんどん上がっているのも背景にあります。

 右派政党はもともと、移民の制限や治安改善の訴えに力点を置いていましたが、ウクライナ侵攻でそうした論点への関心は相対的に下がりました。左派の一部は脱原発を訴えています。ロシア軍がウクライナの原発を占拠したり、敷地内を攻撃したりするなどして、「いざというときに危険だということがわかった」と唱えています。マクロン氏は、ロシアにエネルギーで依存しないためにも、原発を推進すべきだという考えです。

Q:今回の選挙は、国際的にはどんな影響があるのかな。

A:対ロシアという点でみると、日本もフランスも、ともにロシアに経済制裁を科しています。選挙の国際的な意味合いの一つは、こうした「対ロシア包囲網」が続くかどうかというところにあるでしょう。

 右翼政党「国民連合」の有力候補マリーヌ・ルペン氏(53)は、ロシアへの制裁強化には反対で、将来的にはロシアと関係構築も可能だ、との考えを示しています。「ロシアと中国が近づいてしまうリスクを考えなければいけない」という理由です。

Q:フランスの選挙だけど、外国の人たちにも関係があるのかな。

A:欧州連合(EU)では、ドイツを16年率いて、プーチン氏や米国のトランプ前大統領とわたりあってきたメルケル前首相が昨年末に引退したばかりです。英国は2年前、EUから抜けました。フランスは欧州のかじ取り役を担っています。ウクライナをEUに加盟させるのか。北大西洋条約機構(NATO)の役割をどう定義するのか。冷戦時代のように、ロシアを仮想敵国とみなすのか。そこに中国は入ってくるのか。NATOサミットが6月末に控えていることもあり、国際的な影響が大きい選挙です。

Q:論点は外交だけじゃないよね。

A:その通りです。マクロン氏は、5年間の任期中に3回の危機に直面した、「有事の大統領」でもありました。地方を中心に全土に広がった2018年の反政府デモのジレジョーヌ黄色いベスト)運動が一つ目でした。「金持ちの味方」と揶揄(やゆ)されるマクロン氏に対する、庶民層を中心にした大きな抵抗運動でした。

 二つ目は新型コロナウイルス。当初、「ワクチンは義務化しない」と言っていたにもかかわらず、「事実上の義務化だ」というワクチン証明書を導入しました。フランスは自由の国というイメージがありますが、コロナ禍でフランスは市民の自由を厳しく制限した国の一つです。

 そしてウクライナ侵攻ですね。

 こうした危機はいずれも、国内の課題と結びついています。大統領選は、購買力や地域の病院、ガソリン価格といった身近な課題や、自分たちが大切にすべき価値観が何かを見つめ直し、議論する貴重な機会でもあります。

Q:ところで、フランスの大統領ってどう選ぶのかな?

A:投票は2回あります。1回目投票が10日で、得票率が誰も過半数に届かなければ、上位2人が24日の決選投票に進みます。

Q:大統領って何ができるの?

A:下院を解散できるほか、首相や閣僚を任命し、閣議を主催するなど、強い権限があります。外交を担うほか、国家元首であり、軍の最高司令官でもあります。任期は5年、連続任期は最長2期10年までと定められています。(パリ=疋田多揚)

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