あらゆる可能性を秘めた今のインド。世界に広がるパンデミックや戦争・紛争の影響を経てもなお、年率7%超の経済成長が続いている。その原動力のひとつにもなっているのが、モビリティを中心とした都市交通にまつわる製品・サービスだ。
8月26日開催のオンラインセミナー「今のインド」モビリティの実態でモデレーターを務めるベンガルール在住のコンサルタントの筆者(大和合同会社 代表 大和倫之)が、セミナー開催前にゲストに聞いた話の一部を紹介する。このセミナーは、インドの今を伝えるセミナーシリーズの第一回目。ゲストには株式会社ゼンリンデータコム 経営企画本部 副本部長の出口貴嗣氏を迎えて、ここでしか聞けない苦労話やインドの実践的な活用法について余すところなく話を聞く予定だ。
インドはよく「複雑で掴みどころがない」と言われるが、どのように理解するのが正しいのだろうか?
民主主義と市場原理のみを共通の価値観に、30超の独立自治州が23の公用語を通じてひとつの国家として成り立っていること自体、日本人には想像力が及ばない。加えて、日本の約10倍という圧倒的な人口・国土に対して、先進国並みの「都市」と呼べるところは未だ数えるほどしかなく、8大都市の人口を合わせても国民の1割程度。すなわち、残りの9割・12億以上の人口が、いわゆる「大都市の外」に生活基盤を有していることになる。家族・親族や友人といった文字・言葉を始め、思想・信条・信仰、慣習・行動様式、五感・思考回路が近しい集団との中に日々の生活がある一方で、ビジネスや政治といった場面・文脈においては全く価値観の相容れない人種と交流している日常もある。中央政府は2015年から、100都市を対象とした「スマート・シティ・ミッション」を進めているが、ここでいう「スマート・シティ」の定義は日本で語られるものとは大きく異なっている。こんな大雑把な話だけでもこれが「今のインド」の実態だから、掴みどころがないのが当たり前。どんな事象もたまたまその時その場で直面した「一例」に過ぎず、ふと脇に目をやれば「そうじゃない事例」はいくらでも見つかる。
今回のテーマでもあるモビリティに対して「今のインド」にはどのようなニーズがあるか?
そんなカオスなインドにおいては稀な (?) 全国土・全国民に共通するのが「モビリティ」へのニーズ。もっとも、伝統的な自動車製造業がグローバル化されて久しいから、 “Affordable Solution” (一般庶民にとって経済性が折り合う現実解) としても、二輪を始めとした自動車がインドの消費者に広く受け入れられ、一大産業となっていることに何ら不思議はない。しかしながら、ものづくりにおけるデジタルやITの比重が増し、また、道路・鉄道や電気・水道よりも4G・スマホが最も早く社会のインフラとして普及した「今のインド」においては、モビリティに対するAffordable Solution の在り方も大きく変化している。その典型例が米西海岸を起点に世界に広まったシェアード・エコノミーだろうが、Affordable Solutionへの要求が一段と厳しいインドにおいては続々と進化版や代替案が登場している。そもそも「シェアード」=持てる者が一時的に負担して皆でその便益を享受する、「循環型」=多少なりとも価値の残るものは徹底的に使い尽くす、というのはインドのお家芸、伝統的な「作法」でもある。更に加えれば、米西海岸や世界各国でこれらのサービスが展開される際、実際のアプリケーション開発やプログラミングを担ったのは、インド人・インド系の技術者だったりインド開発センターで昼夜を問わず働く数千人・数万人のプログラマーだったり、という事実もある。
そのような中ゼンリンデータコムはなぜ、B2Bフリートオペレーターに注目したのか?
ちょうどベンガルールの街中でもスマホを頻繁に見掛けるようになっていた2012年、同社は「インドのモビリティ」の裏方でもあるB2Bフリートオペレーターに機会を見出して出資・買収し、インドに向けて「はじめの一歩」を踏み出した。GPSや2Gネットワークが普及した当時、まだ多くの庶民にとって高嶺の花であった自動車に車両管理・動態管理を導入する機運が高まっており、その勢いは日本を凌ぐものに感じられた。ただ、その背景には「職業運転手」のスキルを始め、インドの固有事情とも言える複雑な課題が存在していた。
【オンラインセミナー】「今のインド」モビリティの実態・セミナーシリーズ~第一回 ゼンリンデータコム~は8月26日開催。詳細はこちら。