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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

(201)ホワイト・アルバムは解散の予兆ではなかった~50周年記念エディションが語る真実

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1 50周年記念エディションも異色の存在

(1)3部構成

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さて、ここまでは、1968年にリリースされたオリジナルのホワイト・アルバムに関することでしたが、いよいよ50周年記念スペシャル・エディションについてお話します。これは、2018年11月に全世界で一斉にリリースされました。

オリジナルのホワイト・アルバム自体も異色のアルバムですが、50周年記念アルバムも異色の存在ですね。単にリミックスされたというだけではなく、普通には公表されないデモやアウトテイクまでが公表され、アルバムの制作過程が明らかになったという意味でとても貴重です。

「リミックス」版は、オリジナルをリミックスした結果、個々のヴォーカルや楽器のサウンドがよりクリアになって、全体にダイナミックさを増した感じがします。リミックスとは、既存の楽曲に編集を加え、雰囲気の異なる新しい楽曲を制作することです。

やり方次第で違う曲かと思えるほど曲の印象がガラッと変わります。しかし、この50周年記念エディションは、あくまでもオリジナルに忠実に制作されています。そうでないと、ホワイト・アルバムではなくなってしまうので。

「イーシャー・デモ」版は、率直かつ親密な雰囲気に包まれたバンドの様子を捉えており、「While My Guitar Gentle Weeps」、「Dear Prudence」、「Revolution」などの曲の起源を最初期の形態で提供しています。

「セッションズ」版は、膨大な数のアウトテイク、デモ、未収録のトラックからなり、これらは、アルバムを制作するための非公式なレコーディングセッションが、どのようなものであったかをうかがわせる手掛かりとなります。

(2)デモから完成に至るまでの経過が明らかに

デモやアウトテイクは、よく映画やドラマの撮影の際の様子を別撮りして「メーキング・ビデオ」として公表したりしますが、ホワイトがそれと違うのは、公開を意図して制作されたものではないことです。ビートルズが他のスタッフを入れずに、リラックスした状態でレコーディングした様子が描かれていて、ありのままの彼らを知ることができます。

いわば作りかけの「半製品」のようなものですから、こういったものが公開されること自体、滅多にありません。普通、プロとしては絶対公開したくないはずです。普段はメイクしている女性が、すっぴんを人前で晒すようなものですから。

2018ステレオミックス、イーシャー・デモ、そしてセッションズの3枚のCD。どれをとってもお宝の山です。セッションズには「Let It Be」や「Across The Universe」など後にリリースされた楽曲の原型が、早くもこの時点で収録されていたのには驚かされます。前者はまだまだ完成品には程遠い状態でしたが、後者はほぼ仕上がっていました。これ以外にも数多くの金の卵がこれでもかと詰め込まれています。

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個々の楽曲についての詳しい解説や貴重な写真もあり、音楽を聴くだけでなく読んだり眺めたりして楽しむこともできます。

いかにインド滞在中にインスピレーションを得たからとはいえ、これだけハイクオリティーな楽曲を短期間に大量に制作するなど尋常ではありません。ビートルズの偉大さについては今さら語るまでもありませんが、この一連の作品群を見せつけられれば、もはやどのような賛辞でも称賛しつくせません。

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2 ジャイルズ・マーティンのインタヴュー

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以下は、今回のスペシャル・エディションのプロデューサーを担当したジャイルズ・マーティンに対するインタヴューを要約したものです。

「2017年12月からミックスを開始した。クリスマスの前にアルバム全体をミックスしようと計画し、アウトテイクを聴き始めた。精神を集中してありとあらゆる音源を聴いていると、何だか訳が分からなくなって頭がおかしくなりそうで、時々休憩しなければならなかった。何度も同じ曲を聴いていると本当に疲れるので、紅茶やケーキでも何でも、とにかく一息入れないとやってられなかった。」

私は、ミックスやリマスターという作業をしたことがないので想像するしかありませんが、テイクが違うとはいえ、同じ音源を何度も聴かなければならないというのは結構な苦痛ですよね(^_^;)それもそれぞれのテイクのどこがどう違うかをしっかりと把握し、より洗練された作品に仕上げていかなければならないんですから。

それに、大成功したビートルズのアルバムをリミックスしようなんて、一歩間違えれば非難の嵐にさらされます。かといって、それを恐れて及び腰になっていたのでは、結局何をしたのか分からなくなってしまいます。よほど腕に自信がなければ誰も引き受けないでしょう。

 

3 イーシャー・デモがバック・ボーン

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ジョージのキンファウンズのバンガロー

「私は、一人で作業せず何人かのメンバーでチームを作り、キリのいいところでまとめる作業をした。私たちは、全てのレコードをミックスし、私の標準的なフォーマットに編集したところでクリスマスを迎えたのだが、どうも気に入らなかったので、もう一度リミックスする必要があると考えた。」

「私は、自分がこれから何をしようとしているのかを考えなければならなかった。あまりにも有名なレコードがいかにして制作されたかを紐解くのだ。最大のヒントはイーシャー・デモだった。私は、何の準備もしないでいきなりアルバムのレイアウトを決めてしまったのだが、イーシャー・デモは、ホワイト・アルバムのバックボーンとして重要な存在だったのだ。」

「完成に至るまでの通過点であるから重要なので、完成ヴァージョンと近いトラックを取り出しても意味がない。例えば「Yer Blues」は、感情をむき出しにしたトラックの一つだ。だから、それが完成ヴァージョンとは全然違うということを確認したいと思うし、聴くのも面白いし、レコードにする意味がある。」

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デモは、完成ヴァージョンと同じで、自殺をほのめかすような重い歌詞になっているものの、それに比べて曲調は軽い仕上がりになっています。「これがあの完成ヴァージョンに変わったのか」と想像するだけでワクワクしてきます。音楽というものはこのようにして作られるんだ、ということが楽曲を制作したことのない私にすら伝わってきます。

楽曲としての完成度は、完成ヴァージョンの方がやはり断然高いですね。ジョンがもがき苦しんでいる様子がビビッドに伝わってきます。ただ、あの曲の原点はこれだったんだということを理解すると、より一層曲に対する理解が深まります。

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「私のチームも曲のミックスは、別の演奏を聴くことよりも退屈な作業だと言っている。同じ曲ばかり聴かなければならないからね。重要なことは、それがストーリーを伝えているか、自分自身で聴く価値があるか、他にそのような曲が存在しないとしたら聴いてみたいと思うかどうかということだ。」

 

4 楽曲の制作過程が明らかに

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「イーシャー・デモは、バンドが初めてアルバムを制作する前に制作されたが、スタジオ入りする前にデモを行うというプロセスは、通常のプロセスとは異なる。私が知る限り初めてだ。彼らは、デモをレコーディングしようとしたが、その過程でその一部を失ったり、捨てたりした。彼らは、テープマシンでレコーディングしたのだが、それは、「Tomorrow Never Knows」を生み出した時に用いた手法だ。」

「あの楽曲を1966年に制作してからわずか2年しか経っていない。ビートルズにとって、まるで犬の年齢のように1年が7年に相当したのだ。彼らは、テープをレコーディングしたが、それまでとは非常に異なったプロセスを経てホワイト・アルバムになった。」

「そうなったのは、彼らが一緒にレコーディングした時間が少なかったからだと思う。それ以前は、ツアーをやっている間にレコーディングしていたので、メンバーがそれぞれの曲を一緒に聴いていた。彼らは、車の中で歌を聴いたり、お互いに楽しくプレイしたり、絶え間なく演奏したり、ギターを携えてホテルに宿泊していたことは確かだが、ホワイト・アルバムの時にはそんなことはなかった。」

「「Sgt Pepper」の時にはレコーディングする前にツアーをやっていた。ホワイトとの違いはそこだろう。イーシャー・デモでは、曲の断片などが現れるだろうと予想していたが、その一部はデモ段階でもかなり完成していたことに気が付いた。完成形に近いものでは「Cry Baby Cry」などがあるが、アウトテイクのいくつかはそれらとは全く違うものだ。」

「イーシャー・デモは、厳密な意味でのデモではない。あれは、曲を制作する過程でのデモだ。リーバー&ストーラー(スタンド・バイ・ミーなど数多くの名曲を制作したコンビ)は、レコードを制作する時には、必ずデモを録音して曲を完成させていた。だから、彼らの制作したデモは殆ど完成した曲だった。」

 

5 ビートルズは必ずしも不仲ではなかった

Circa May 1968. More business than music as The Beatles, with Yoko, and Apple Records signing Mary Hopkin.

ホワイト・アルバムのレコーディングの時は、多くの関係者がとてもギスギスした雰囲気だったと証言しているが、必ずしもそうではなかった。ニューヨークで「アイ・ウィル」のプレゼンテーションをやった時に、記者から「この曲は、ポールが一人でレコーディングしたんですよね?」と私に語りかけてきた。私は、「ええ、でも、そうじゃないんです。ジョンとリンゴがいたんですよ。」と応えた。

「70年代にジョンが、そしてジョージも少し語っていた。「ホワイト・アルバムは、ビートルズ解散のサウンドだ。」と。1980年に父のジョージは、ジョンに尋ねた。「君は、どうしてあんなことを言ったんだね?」すると、彼は、こう応えた。「その時は、ハイになってたんだ。何を言って欲しかったんだい?」

ジョンが、いつもの調子で軽口を叩いてしまったということでしょうか?実際にはそれほどでもなかったのに、話を大きくしてしまったのかもしれません。しかし、他ならぬ彼の発言ですから、誰もがそれを真実だと受け取りました。

6 ホワイト・アルバムはビートルズ解散のサウンドではない

ポールは、2018年に「ビートルズ解散の原因は音楽面というよりも、むしろビジネス面の方が大きかった」という趣旨の発言をしています。特に、自分たちで設立したアップルコア社の乱脈経営で多額の損失を出しており、それをめぐって4人の関係がギスギスしていたのは事実です。

つまり、裏を返せば音楽面での不一致は、それほど大きなものではなかったということです。ビートルズは、音楽に関しては天才でしたが、経営者としての能力には欠けていました。デビューしたばかりの頃に結ばされた奴隷契約で散々むしり取られてきた苦い体験から、自分たちのレーベルを立ち上げたいという強い願望があったのですが、経営の才能には恵まれていなかったのです。

ビートルズにとって、ホワイトアルバムのレコーディングは辛いものではなかった。しかし、私の父やスタッフ、エンジニアには辛いものだった。「Happiness Is A Warm Gun」のレコーディングの時にジョンは「だんだん良くはなってきている。だけど、面白くなってきてはいない。」しかし、ジョージは「だんだん良くなってきたし、面白くなってきた。」と微妙にすれ違ったコメントを残している。」

彼らは、レコーディングを嫌がるどころか、徹夜するほど熱心にやっていたんです。ただ、チームプレイより個人プレイが多かったんですね。自分が求めるサウンドを追求しすぎたあまり、ギスギスした関係になってしまったのでしょう。

 

(参照文献)DROWNED IN SOUND

(続く)

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