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ストリート・オブ・ファイヤー〜流れ者の美学とロックンロールの寓話

2023.04.18

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『ストリート・オブ・ファイヤー』(STREETS OF FIRE/1984)


1980年代ほど良質な青春映画が量産された時代はないだろう。このコーナー「TAP the SCENE」で今まで取り上げたものだけでも、その金字塔『アウトサイダー』をはじめ、『ダーティ・ダンシング』『プリティ・イン・ピンク』『初体験リッジモント・ハイ』『レス・ザン・ゼロ』『ビギナーズ』など、硬派なストリートものから恋とファッションに富んだ学園ものまで、様々な表情を持った青春映画が製作されていた。そしてその多くが音楽の力によって、より魅力的な物語にもなった。

忘れていたことを思い出させる映画が好きだ。だから僕自身が映画少年に戻って、自分が10代の頃に見たら最高だと思うような映画を作りたかった。


ウォルター・ヒル監督はそんな想いで『ストリート・オブ・ファイヤー』(STREETS OF FIRE/1984)を撮ったという。冒頭のクレジットに現れる“A ROCK&ROLL FABLE”と“ANOTHER TIME,ANOTHER PLACE”の文字。今から始まる物語は「ロックンロールの寓話」であって、それは「どこかの物語」だという宣言に、監督の青春映画作りに対する情熱を感じずにはいられない。

夜の光景と若さが軸にありながらも、そこにタフでクールな流れ者の美学を漂わせた『ストリート・オブ・ファイヤー』は、80年代だからこそ生まれた“ひと味違う青春映画の傑作”だった。

50年代のロックンロールの躍動感と、60年代にセルジオ・レオーネたちが築いたマカロニ・ウェスタンの復讐劇の融合とも言えるその独特の世界観は、「悪を裁くのは正義でもヒーローでもなく、悪を始末するのは“流れ者”だ」ということを教えてくれる。しかし、この映画では人は一人も死なないし、殺されもしない。それがまた新しかった。

ネオンと高架に覆われたどこかの街。故郷に帰って来たロックンロールの女王エレン・エイム(ダイアン・レイン)の公演中、レイヴェン(ウィレム・デフォー)率いるバイクと革ジャンで武装したギャング団が彼女を連れ去るという事件が発生。

正義であるはずの警察が何も動かない状況の中、一人の男が電報で知らされて街に戻って来る。その名はトム・コーディ(マイケル・パレ)。かつてエレンと愛し合った男であるが、音楽を選択した彼女のもとを去って軍隊に入った過去を持つ。

トムはエレンのマネージャーに助け出すための報酬を要請。さっそくギャングたちのもとへ繰り出し、あっという間に炎の海にしてエレンを救出する。だがレイヴェンは必ず復讐すると言い残す。一方、エレンはトムが賞金稼ぎのための行動だったことに激怒するが、一緒にいるうちに二人の愛が再燃する。雨の中のキスシーンは名場面だ。

ギャング団の復讐を面倒がる警察はトムに街から去るように迫るが、住民たちの団結もあってトムはレイヴェンとの闘いに勝利する。街に平穏が戻り、エレンの公演が再開される。ステージで歓声とスポットライトを浴びる彼女の姿をじっと見つめていたトムは、想いを断ち切るように再び流れ者となってどこかへ消えていく……。

そんなマイケル・パレがどこまでもカッコ良すぎるが、オープニングとエンディングでエレンが歌う2曲(ちなみにダイアン・レインは歌っていない)、「Nowhere Fast」と「Tonight is What It Means To Be Young」こそ、この映画のハイライトとして記憶されるべきだろう。

楽曲を手掛けたのはジム・スタインマン(2021年4月19日に73歳で死去)。ミートローフの驚異のベストセラー『Bat Out of Hell』の仕掛人であり、ボニー・タイラー「Total Eclipse of the Heart」やエア・サプライ「Makin’ Love Out of Nothing at All」などでドラマチック・バラードの極致を表現したプロデューサー。映画のサントラには他にダン・ハートマンやライ・クーダーが参加した。

『ストリート・オブ・ファイヤー』は、改めて音楽の力を感じることができる映画だ。

この映画には欠かせないジム・スタインマンのドラマチックなバラード


『ストリート・オブ・ファイヤー』

『ストリート・オブ・ファイヤー』






*日本公開時チラシ
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*このコラムは2015年10月に公開されたものを更新しました。

*参考・引用/『ストリート・オブ・ファイヤー』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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