続き…
ドア越しで、遠くからに聞こえるが、風の音を割るように……、確かにこの公衆電話が鳴っている。
僕らは、その公衆電話を凝視したまま固まって動けない。
耳にあてたまま固まった僕の携帯からは、ずっと呼び出し音が聞こえたままで、誰かが出る気配もない。
…この絶妙なタイミング……、まるで僕がこの公衆電話にかけたような…
そんなことが、頭にグルグル回った。
僕はその場の風景を、テレビを見ているように、遠く眺めていたのだが、その登場人物が思いがけない行動をして我に返った……。
突如、僕に背を向けたなっちゃんに、僕は
「なっちゃん……。ひょっとして……」
この後の言葉、
『その鳴ってる公衆電話に出るのか?』
「俺らがここにいるのを見て、どっかからかけてきてる、誰かのいたずらやろ……」
と言う、なっちゃんにもある種の緊張が見えた。
「別にほっとけばいいやんけ……」
という僕の、当然の意見に
「お前にだって変なこと起こってるんやろ?とりあえず、正体を確かめる」
頼り甲斐のある言葉とは裏腹に、『恐る恐る』という副詞が、彼のその時の心情を的確に表現している。
彼は自分を奮い起たすように、しかし、慎重にゆっくりと電話ボックスのドアを開けた。
遠く聞こえていた電話の呼び出し音が大きく……、近くなった。
「もしもし……」
と言う聞きなれた声が、耳の側と、風の音越しに前方からステレオで聞こえてくる……。
僕の携帯は……、やはり、この公衆電話に繋がっていたようだ。
「何で……?何で俺の携帯が、この公衆電話に繋がってんねん……」
僕の悲痛な声は、その元凶たるこの公衆電話を通してなっちゃんにも聞こえたようだ……。
「なんや……、お前か……、じゃあお前のいたずら……でもなさそうやな……。その顔を見ると……な」
細く切ない男性の声が、僕らの受話器から聞こえてきたのだ……。
…あの時の……男の声だ…
一瞬で僕ら二人に緊張が走った。
僕となっちゃんは目を見開き、お互いの顔を凝視したまま、固まっている……。
どうする?と、お互いに目でアイコンタクトをするが、答えが出るわけもない……。
僕は連日に渡る『公衆電話からの電話の恐怖』により、完全に戦意は喪失していたが、なっちゃんは違ったようだ。
彼は少し考えるような素振りをした後、
「何がやねん!俺らが何かしたんか!?言ってみろや!」
このなっちゃんの乱暴な問いに対する相手の返答にて……。