(奇妙な場所だ……。でも来たことがあるような……)
殺風景で四角い部屋、気が付くと彼はそんな場所にいた。
見渡す限り窓もない。しかしただ黄色く照らされている。生乾きの洗濯物のような匂い……、どこからか聞こえてくる電子音のような音。
異なる場所に繋がっているのだろう扉のない長方形の穴に彼は向かう。その向こう側には、延々と続く黄色い廊下があり、彼はそこに足を進める。
恐怖などはない。だが目的もない。
ただ彼の足は、まるでそれが独立した意思を持っているかのように、ただ彼を運んでいる。
時折、傍らに見える穴からは、牢獄のような黄色く四角い部屋だけが……並んでいる。
何を不審に思うわけでもなく、彼はただ……前に……、前方に……。
「そこで目が覚めた!」
彼はこの近日中、何度も見るという奇妙な夢を僕に描写した。
一般的に、一笑に臥せてもよいこの夢……。
僕は……どんな顔をして彼のこの話を聞いていたのだろう。恐らくマスクでは隠しきれないほど……動揺していたはずだ……。
「お前……、それ……最近、何度も見るって言ってたよな……」
「ああ……うん」
時が止まったかのような無機質で無人の空間、何よりも黄色いという描写……。
これは…………僕が……、何か人知の及ばないものに遭遇する時に迷い混む……あの黄色い世界ではないのか……?
さがり女(同話参照)の時も、旧校舎の神隠し(同話参照)の時も、たぶんカミヤシキ(同話参照)の時だって、僕も……そんな『黄色い世界』に迷い込み、そしてその後……。
あれは……現世と他世界との狭間の世界……。時の流れさえも異なり、こちらには存在しないモノたちが闊歩する世界。
彼が見た……という夢、『あたりがやたらと黄色い』は、その描写だけで僕を十分に不安と恐怖に陥れた。しかも彼はその夢を見るたびに、その中にいる時間が長くなっているようだ、と言う。
(いや……ただ一部が似ているだけだ。ただの偶然……。黄色い街や部屋の夢ぐらい……皆が見る)
僕は無理やり自分を納得させたが
「それでな……」
と、彼の話には先があった。それは僕を仰天させる……いわゆる情報だった。
近日、頻発に見るこの『奇妙な夢』。
あまりと言えばあまりに不安で、彼は自身の見る夢の正体をネットで調べたのだ。
すると……『The back room』(ザ・バックルーム)と呼ばれる、海外で有名な都市伝説にヒットし、それが彼の見た物と酷似している、と言った。
この『奇妙な黄色い世界』は世界中で有名なモノであり、超常的なナニカに捕らわれる際、毎回のように僕が目にする『やたらと黄色い世界』も、世界中で多くの人が経験をしているこの『ザ・バックルーム』であると言い換えることが出来るのかもしれない。
つまり……世界中の不特定多数の人々が僕の経験したあの黄色い世界を目撃しているというのなら、それは、あの奇妙な世界の存在が格段に上がりはしないだろうか?
だが、今重要なことは、もしも彼がこの夢をこのまま継続して見続けると言うのなら、僕の経験上、何か常識外の超常的なモノに遭遇しておかしくない。そう、ゴミ袋のような音を出すナニカや、「墓場が来る」と叫びながら追いかけて来る腐った上半身だけの男のような……。
あの世界の正体がわかれば、何か手段を講じることが出来るかもしれない。ことさら生徒からこういう相談をされたとき、また『奇妙な夢』に関わる話では、僕自身もそれに巻き込まれることが多いのだ。
杞憂だとしても、思い込みだとしても、手段は速めに用意しておいた方がいい。彼の為にも、そして僕がまた捕らわれてしまったときの為にも……。
このブログにいる人々なら、そのような事に詳しい人が多いはずだ。誰か……,何か知らないだろうか?
この『the back room』に関して……。不吉めいたこの『黄色い狭間の世界』、特にその脱出手段について……。