世の中にラーメンほど葛藤に満ちた食べ物があるだろうか。


あんなに美味しいのに、その正体は脂質と糖質そして塩分の塊。世は一億総ダイエット社会、「ラーメンを食べる」という至福には常に罪悪感がついてまわるのである。


でももし、そんな葛藤を解決できるメニューが存在するとしたら。美味しいラーメンを、それでいて罪悪感なくいただけるとしたら……? 


問題のメニューを提供しているのは、ラーメン店「AFURI」。恵比寿や麻布十番なんかに店を構える、ちょっとオシャレなイメージのある淡麗系ラーメン店であるが……この店、プラス180円で全メニューの麺を「こんにゃく麺」に変更できるのである。


麺を何かで代用するオプションは他のラーメン店にも存在するが、淡麗系って珍しくないだろうか?

「立川マシマシ」の「麺なし」や「蒙古タンメン中本」の「こんにゃく麺」など、多くは具材やスープのパワープレイで満足感を上げている印象。

そこへきて、淡麗スープのAFURIはどんな戦い方をしてくれるのか……。


・突撃


これはもう食べてみるっきゃないということで、AFURI 南町田グランベリーパーク店へ。ご多分に漏れずスタイリッシュな店構えである。



店内の券売機で、まずは食券を購入。「おすすめ!」の表示に従い、代表メニューだと思われる「柚子塩らーめん」



で、今回のポイントはここだ。プラス180円の「こんにゃく麺」に変更。

そのほかもなんやかんや選択できたが、麺のほかは全て「おすすめ!」を選んで注文。しめて1470円だった。



店内もまた「ラーメン屋」のイメージに似つかわしくない、近未来的で明るいデザインである。

キョロキョロしているうちに運ばれてきた『柚子塩らーめん(こんにゃく麺変更)』が、こちら。


美しい。


淡麗スープの透明感と鶏油の照りが、店内の照明を反射して きらきらと輝いている。具材の彩りや配置も まるでお手本のような鮮やかさで、「宝石箱」などという手垢のつきまくった表現が思わず頭に浮かぶ。

見た目も華やかなら香りもまた然りである。ふわあっと香ってくる柚子の爽やかな香りに誘われて、まずはスープからいただきます……。


ほう。


スープを一口飲んで、まず感じたのは酸味。酸味のあるラーメンスープというのを ついぞ体験したことがなかったため、思ったよりしっかりした柚子感にちょっと驚いた。ものすごく乱暴な例えだが、ちょっとポン酢っぽい。

しかしもちろんそれだけではない。もっと上品で、複雑だ。表面に浮かんだ鶏油のコクと動物的な旨味に、口中に広がる香ばしさ。目視で確認はできなかったものの、ほんのりとニンニクっぽい香りも感じる。

これは……イイ。麺がこんにゃくでも、このスープなら いけるかもと思わせてくれる。


期待も高まったところで、満を持して麺を一口。


なるほどね……!


まず、これは白滝である。食感や質感は完全に おでんの白滝。従って、小麦麺にあるようなモチっと感や咀嚼のうちに増す糖質の甘みは持ち合わせていない。

……が、それが全くマイナスに働いていない! スープの味に頼るのではなく、麺そのものに味がしっかり入っている。噛むほどに美味しさが染み出してくるので、こんにゃく特有の弾力が むしろ良い仕事をしている。



・具

で、その麺以外のメンバーというのが 以下の通り。炙りチャーシュー、海苔、細切りメンマ、水菜、味玉である。


商品写真ではペラペラに見えたチャーシューだが、思ったよりしっかりとした厚みがあった。

トロトロチャーシューではなく、脂身はプリッと赤身はがっしり、咀嚼するごとに豚の旨味が滲み出てくるタイプである。「炙り」の香ばしさがスープに溶け出して、非常に良い味を出してくれている。

実はチャーシューは「鶏」と「炙り」のどちらかを選べたのだが、断然「炙り」で食べてみてほしい。スープの味が変わる気がする。


「細切りメンマ」の名前に違わず、かなり細かいメンマ。メンマというより、青椒肉絲に入ってる筍みたいなサイズ感と歯応えである。


彩り要員かと思いきや しっかりした仕事をしてくれていたのが、水菜! シャキシャキの食感と、遅れて感じる仄(ほの)かな苦味が いいアクセントを与えている。

この水菜の働きにはちょっと驚かされた。今回のトッピング部門におけるMVPを差し上げたい。


春期限定メニューの『白だしとビーツの桜煮玉子』は白身がほんのりピンク色。春の間は味玉が自動的にコレになるようだ。

味は普通に煮卵だったが、上に乗っかった柚子皮の黄色もあいまって 色合いが可愛らしい。見ていてちょっと気分が上がる。


そんなこんなであっという間に完食。ごちそうさまでした!



・総括

これはけっこう画期的なメニューではなかろうか……と、いうのが実食を終えた筆者の最初の感想である。

まず、単純に美味しかった。ポン酢みたいなスープの味には最初こそ驚かされたが、その酸味のおかげでラーメンスープにありがちな「美味しいけど後半キツイ」感が解消されている。むしろ食べ進めるほどに じわじわと滋味深い、なんかずっと飲んじゃうタイプの美味しさだ。

そして こんにゃく麺である。小麦麺に寄せようと足掻くのではなく、しっかり個性を活かした勝負をしている。潔い。

こんにゃく特有の弾むような食感が、食べていて楽しいのだ。なんというかエンターテイメント性がある

さらに具材で味や食感の変化も楽しめるのだから、もはや口の中が遊園地である。アトラクションを乗り継ぐような感覚で、具、麺、スープ……と夢中になっているうちに完食していた。


そして何より、罪悪感がない。店を出てしばらくしてから気付いたのだが、「ラーメン食べちゃったよ……」感というのか、糖質脂質をたっぷり摂取した後特有の ボーッとした感覚がない。非常に爽快である。なんだかラーメンの 文字通り「おいしいとこだけ」いただいたような気分だ。


ただ、ただね。


ちょっとお高い。※(1470円)


申し訳ない、ここだけは触れないわけにいかなかった。ちょっと高いのである。看板メニューを こんにゃく麵に変更すれば ほぼ1500円、ラーメン一杯に払うにはなかなか高級な価格帯である。



ただ、だからこそ このメニューは、ダイエット中の たまのご褒美として活用するのが正しい道ではないだろうか。

先述したように店内もキレイで明るいし、味は間違いなく美味しい。おまけに食べ終わったあとまで良い気分でいられる。ひとつの体験として、とても良い時間になるはずだ。


最近頑張ってるからちょっと贅沢しちゃおうかな……なんて日に、ぜひ一度訪問してみてはいかがだろうか。


執筆:砂付近
Photo:Rocketnews24.