始まりは9時からの1限目、大講義室にて、講師がいつも通り講義をしていた。その講師は大学では厳格で有名で
例えば、講義中に携帯をいじっていたり、私語をしている生徒には一発で講義室からの退去を命じるほどなんだよ
当然だって思うかもしれないって人もいるかもしれないけど、そこはFラン大だから許してやってくれ

講師「時間です。じゃあ手を止めて静かに、自分の右側の人に小テストを回して、待機していてください」


キモオタ「ピューイ」←口笛

講師「・・・」
1回目は布の擦れる音でもと勘違いしたのだろうか、お咎めはなかった

キモオタ「ピュピューイ」
2回目の口笛、速攻で講師が切れた



キモオタ「・・・」顔あげる

講師「何さっきから口笛吹いてんだ!講義中だぞ!」



キモオタ「ピューイ」
講師の制止が聞こえているのかいないのか、尚も口笛を吹くことを止めないキモオタ
もちろん端っこで一人で座っていた


講師「あ?」
講師の声のトーンがまた一段階低くなって怖くなった

ざわめき始める講義室。ざわめきというよりは、キモオタに対する明らかな含み笑いが大半だったけど


講師「いいから!他の君たちは騒がなくていいから!君だよ君!」


キモオタ「・・・」

講師「なーに知らん顔してんだ!君だって言ってるだろ!そっち行くから待ってろ!!」


キモオタ「ピューイ」


講師「おい!!!!」


講義室は今度はさっきよりも大きい笑いが漏れた

ものすごい早足でキモオタの元に辿りつく講師
周りはものすごいざわついていたけど、最後の口笛でいよいよ本気で切れたのか周りには注意しなくなった


講師「君だって言ってるだろ!顔上げろ!」


キモオタ「・・・」顔あげる


講師「君ねえ、今講義中でテストなんだよ?カンニングで0点にされたいのか?」


キモオタ「・・・」

講師「ん?私何回も注意したよな?カンニングって思われても仕方がないよな。他の生徒のテストも邪魔しておいて」

口笛が聞こえたのは明らかにテスト終了後だったけど、突っ込める雰囲気じゃなかったから置いておいてキモオタへの言及は続いた


講師「何で口笛なんか吹いたんだ?君一年生でも春学期は私の講義とっているはずだよな?
必修科目だったし」

キモオタ「・・・」

講師「私、最初の講義の始めにはいつも言っているよな?」
講師「『私の講義では私語は厳禁です。これを守れない人は私の講義を受講する資格はありません』って」

キモオタ「あ、はい・・・」

ここに来て初めて声を発したキモオタ。周りのさっきまでの騒音でかき消されていただけかもしれないけど
明確に聞こえたのはこのときが初めてだった。講師の怒りに触れてか生徒は静かになってたし


講師「はいじゃなくてさ、私は何で口笛なんか吹いたのかって聞いてるの?
わかる?私今相当君にイラついているの」


キモオタ「あ、なんか無意識に出て・・・」


キモオタは再三にわたる注意を「無意識」の一言で済ませやがった

口笛って意識的にやるもので、無意識では出ないだろうと思ってたら、案の定同じ疑問を講師が口にしていた


講師「口笛なんて無意識に出るわけないだろ!!ふざけてるのか君は!!」



キモオタ「ピューイ」

周りはもう大爆笑だった

講師「っこの!!お前はまた!!!!」バンッ!!

もうたしなめるとか叱るの域を出て、ただ怒りをぶつけているよな口ぶりだったからな
このタイミングでまた口笛吹かれて、また一段階怒りが上がった
机に片手叩きつけた

キモオタ「いや・・・だから癖で、すいません」

講師「だから癖とかで出るもんじゃないだろうが口笛はぁ!!!!」

キモオタ「・・・」

講師の大声でまたも沈黙する講義室。机に顔埋めて笑いこらえている奴もたくさんいたけど


講師「おい!おい!!なぁ、君本当に私を馬鹿にしてるのか?うん?」

キモオタ「いや、だから違います・・・」

講師「いいんだよ、私は別に君に単位を上げなくても。講義をここまで中断させておいて。ん?わざとなんだろ?単位要らないんだろ?」

キモオタ「・・・」

またも顔を下げて沈黙の態勢に入るキモオタ。もう堂々巡りになっているような気がする
ここで講師が何かを悟ったのか、深いため息をついた


講師「もういいから・・・君学籍番号と名前は?」

キモオタ「え、いや・・・何でですか?」

講師「何でですかってわかるだろ?いいから教えなさい。それとも今すぐ出ていくか?うん?」

キモオタ「・・・」

講師「あ、これ君の小テストだよな?じゃあこれ見るからもういいよ」

キモオタ「止めっ!!」

講師がキモオタの答案用紙に手を伸ばした瞬間、それまでの緩慢な動きとは思えないほどの速さで
講師の手から小テストを奪い返したキモオタ

講師「おい!何するんだ!!」




キモオタ「ピューイ」

この時点でやっぱりわざとなんじゃないかと思った。このタイミングで口笛出るかな
周りも最高の笑いの渦だった


講師が口半開きになっていた。大人ってすごいなって思った
殴りかからないまでも手すら出ないんだもんな。多分この講師が温厚すぎるだけだと思うんだけど

講師「誰か、この子の名前知っている子いるかー?」

それまでと一転してすごい穏やかなというかいつもの講義中の声で周りに呼び掛けていた

他生徒「・・・」

この状況で呼びかけられてもそうそう言えるやつなんていないとは思った
単に本当に知っているやつがいないだけかもしれないけど


講師「いないのか?それじゃあいいです。君。君の顔覚えたからな。後で教務課にチェックしに行くから」

キモオタ「だから止めてください・・・すいませんでした」

講師「まず君は何に対して謝っているんだ?講義を中断させたことか?私を馬鹿にしたことか?口笛を吹いたことか?」

キモオタ「いや全部・・・です」

講師「ふぅ・・・」

講師「もういいから、じゃあ学籍番号と名前言いなさいって」

キモオタ「え、いや、だからなんで・・・ですか?」


講師「いいから。今回のことはちゃんとしておかないといけないだろ?」


キモオタ「・・・」

またも沈黙するキモオタ


講師「じゃあ、もういいです。ダメだこれ以上は君と話していても」

最初にも言ったけど一応厳格で有名な講師だったからな。これ以上講義の時間が割かれるのを
嫌ったのか、あきらめた様子で教卓に戻っていった

キモオタ「・・・」

キモオタ隣女子生徒がキモオタに話しかけていた。多分左端にいるあいつが
答案用紙を回してこないから仕方なく声をかけたんだと思う

キモオタ「・・・」フルフル

なんとキモオタは首を横に振って答案用紙を渡さなかった
周りはまたも含み笑いが聞こえたけど、講師は我関せずの姿勢で黒板消してその後に控えていた


講師「全員集めたかー?」

いつもならそんな問いかけは絶対しないのに生徒たちに呼びかける講師
もちろん講師と他生徒の視線はキモオタだった
キモオタは答案用紙机に置いたまま下向いていた

講師「全員集まったみたいだな。じゃあこの小テストの結果は
後日私の研究室の前に張り出しておくので気になる生徒は確認に来てください」

講師、明らかにキモオタに視線を向けて2~3秒静止する
周りはもう普通に含み笑いばかりだった

キモオタ「・・・」

講師「じゃあ後30分しかありませんが前回の続きやりますよ」

講師「ここは前回もやりましたね。配布資料の」



ピューイ

講師「・・・」

講師の沈黙とほか生徒の「は?」みたいな声が聞こえてきた

キモオタ「ピューイ」

周りはまた含み笑い

講師「あのさ、君さ、何でまだこの講義室にいるわけ?」

もうそこに怒りはなくて至って平静な声色だった

キモオタ「・・・」

講師「おーい、君だよー君ー。知らん顔すんなー」

講師はさっきは平静って言ったけど、この呼びかけには明らかに怒りの色が混じっていた

講師「6段目の君だー。無視すんなー」

キモオタも我関せずの姿勢でさっきと同じ姿勢で回収し損ねた答案用紙を眺めているようだった
最早いちいち書くまでもないんだろうけど、周りはもちろん含み笑いね。もう講義どころじゃなった


キモオタ「・・・」

講師「今日はもう駄目ですね。授業になりません。後中間試験まで講義何回だ?
もしかしたら試験前に補講入れるかもしれませんので、みなさんそのつもりでね」

さっきまでとは違った意味でざわめく講義室
テスト期間、本来休養と試験勉強にあてるはずの時間をわざわざこの1コマのために来いって言われているんだからな
誰だって嫌だろうな。小さく「は?ざけんなよ」「あいつのせい?」みたいな声は聞こえてきた

講師「仕方ありませんね。君たちだけじゃありませんよ。私だって嫌です」

この講師明らかにキモオタに非難の目を向けさせようとしているなってのが、この時ものすごく感じられた

最初にも言ったけど厳格な性格も手伝って、講義の残り時間がこれ以上無為に削られるのを嫌ったのか
キモオタは沈黙の姿勢を保ったままお開きになった。講義終了後、なんとキモオタは教卓の前に向かっていった
講師とさっきのやり取りの聞いていた続きを再開、もちろん他生徒も
他に用事ないのかって聞きたいくらいほぼ全員居残って、やりとりを騒ぎながら聞き入っていた
講師の怒号とキモオタの口笛が互い互いに聞こえてきて面白かった



結局キモオタは最後まで口笛を止めなかった。講師は怒りながら次の講義あるからといって退出
去り際の一言
講師「やっぱり補講は無しにします!しかし、試験の進行速度は他のクラスに合わせますので
このクラスはしょうがありませんね。私はこの問題には一切責任はありませんから!!
誰に責任があるかは皆さんも分かっているとも思います!それでは!」

他生徒「え・・・」「は?」「マジなの?」




キモオタ「ピューイ」

キモオタ「・・・」
周りの非難の矛先が自分に向かないうちに退出

終わり