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ラブコメの帝王 ヒュー・グラントも60歳「ゲスな探偵役に立候補したんだ」

 今から20年以上前、ヒュー・グラントはタブロイド紙に最も多く登場するスターの一人だった。イギリス映画『フォー・ウェディング』がアメリカでもサプライズヒットし、『9か月』で初めてハリウッド映画に主演した彼は、当時交際していたモデルのエリザベス・ハーレイとともに、ひたすらパパラッチに追いかけられたものである。

恋愛コメディの帝王が還暦を迎えて挑んだ、騙し合い犯罪アクション

ヒュー・グラント

写真/REX/アフロ©2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

 そんな彼が『ジェントルメン』で演じるフレッチャーは、タブロイド紙に雇われてターゲットの身辺調査をする私立探偵。面白いことに、かつてこの手の人物に悩まされたグラントは、ガイ・リッチー監督に自らこの役をやりたいと希望したのだという。 「ガイが僕にオファーしてくれたのは、編集者の役だったんだよ。でもフレッチャーのほうがゲスなキャラクターで、僕がそういう役をやったら意外なんじゃないかと思ったんだ。そう提案してみたものの、自分でもまだ不安があったから、自分の演技をiPhoneで録画してガイに送った。つまり、この役のためにオーディションをしたんだよ(笑)」 『ジェントルメン』は、リッチー監督の原点回帰ともいえる、複数のイギリス人男性が登場する犯罪アクション映画。イギリスで大麻ビジネスを成功させたアメリカ人ミッキー(マシュー・マコノヒー)が事業を売って引退すると決めたことから起こる騒動を、ユーモアとバイオレンスを交えて描くものだ。  外でごたごたが起こっている中、フレッチャーはミッキーの右腕であるレイモンド(チャーリー・ハナム)に接近。自分の集めたミッキーに関する情報と引き換えに、大金を要求する。 「僕は、個人的にもこういう私立探偵を知っているんだ。ちょっと複雑な話だけど、かつて僕の携帯をハッキングしたり、医師のカルテを盗もうとしたりした奴らが、今は僕の味方になっているんだよ。こうした人たちの多くは刑務所行きになったが、彼らを雇った人物は何の制裁も受けていない。そのことに彼らは怒っていて、メディアの倫理を糾弾する僕の側に回ったんだ。  僕の誕生日パーティに来た人もいる。『あなたは知らないかもしれませんが、この人は’96年にあなたの家に侵入した人ですよ』と紹介され、『それはどうも。お飲み物はどうですか? どこに何があるかあなたはご存じでしょうが』と返すのは、なんとも奇妙な感じだったけどね(笑)」

現場で監督と喧嘩になったよ

 フレッチャーを演じる上での魅力は、長ゼリフの畳みかけにもあっただろう。しかし、リッチー監督が撮影当日にも思いつきで変更を加え続けるせいで、グラントは相当なフラストレーションを覚えたようだ。グラントと多くの共演シーンがあるハナムも、監督について「昨日すべてを気に入ってくれていたかと思うと、次の日は全然違うことを求めてくる。役者は準備してきたこととまるで違うことを要求されたりするんだ」と語っている。 「僕にとっての撮影初日、40ページもある長いセリフを完璧に覚えて現場に足を踏み入れたら、ガイに『ああ、それは忘れて。これが新しいのだから』と3枚の紙を渡されたんだ。僕が『そんなの無理です』と言うと、彼はプロンプターを用意するという。それで僕はますますむかついて、『僕はアナウンサーじゃなくて役者ですので』と言って、ちょっと喧嘩になったよ」  結果は、グラントが勝ったようだ。 「あの段階で新しいセリフを言うなんて無理だったし、最初のバージョンで十分よかったしね。そのセリフにも僕は自分なりのテイストを少し入れたんだけど、それについてガイは何も言わなかった。つまり、僕はガイに変更を許さなかったが、ガイは僕が変更を加えるのを許してくれたというわけ(笑)。彼はコラボレーションをしてくれる監督だったということだね」
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「ロマンチックコメディを長くやりすぎた」
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ジェントルメン
’20年/英・米/ 1時間53分 監督・脚本/ガイ・リッチー 出演/マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナムほか 全国公開中(東京、大阪など除く)
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