廃墟ガソリンスタンド裏手、閉ざされた向こう側に、およそ数十年もの長きに渡って封印され続けていた、廃屋とダットサン。
封印といっても、流れでそうなってしまっただけで、数十年間もの間、訪れてみようと興味を持ったのが、物好きな僕だけであった、というのが本当のところなのであろう。
廃屋に今にでも飛び込んで行ってやろうかという、はやる気持ちを押さえて、ここはひとまず慎重に、肩の力を抜き一呼吸置いてから、ダットサンの車内を検証してみることにした。車好きのご主人なら、このような事態に至ってしまった理由を何か、車内に残しているのではないだろうかと、僕は考えたのである
廃屋の壁伝いに歩いて行くと、僕の腰ぐらいまで草が生い茂っている草叢があった。倒木もあれば、地面の一部は陥没していたりする。
草叢のある土地は隣接する家の庭の壁によって四方がそれぞれ囲われて区切られているといった具合。この家から境界線を主張している強い意志は感じられない。
つまり、この家が建てられた当時は周囲に家もなくのんびりと一軒の家が佇むだけであったが、次第に周辺に家が立ち並んでゆき、ここの家主の所有する土地部分が視覚化されていったと。ではなんのための空間なのかと考えてみたが、なんのことはない、庭だったのだろう。あまりにも荒廃していてイメージが結びつかなかったが、草の手入れさえしていれば、さぞかし立派な、子供や子犬が一年中元気に飛び回っていそうな庭であったのだ。
ゆとりのある庭。モダンな作りの家。複数の高級乗用車。
ますます、裕福な暮らしをしていたであろうことが裏付けられていく。
であったなら、息子や娘、孫がこの状況をなんとかしてやれなかったとも思うが、独身を貫き通したか、もしくは、子供がいなかったの、どちらかであるのか。
横たわる、ホイール付きタイヤ。
見覚えのあるマークが中央に。
BMWだ。
盗まれないように、表にあったBMWから外しておいたのか。スペアタイヤなのか。
スポークから突き出た幹。
タイヤを地面に固定するために、ご主人が伸びていた木を手頃な長さにカットしてスポークに通したか、タイヤを置いていたら勝手に地面から木がニョキニョキ伸びてきて、スポークの間から顔を出したか。しばらくその場で考え込み、前者に結論が出かかるも、スポークの間隔が狭くて幹がめり込んでいるようにも見えなくはないこともあり、結局、結論はには至らず。
ダットサンのリヤテールには「ブルーバード」のエンブレム。
ご主人以外に、初となる数十年ぶりの御開帳となるであろうことは間違いなかった。
車のドアノブは固かったが動くには動いた。ドアを開こうとするとスンとは言うが、開くまでには至らない。少しの自由はあるので、ロックがされていないことは確実。
ドアノブを引いたまま身動きしないドアを解きほぐすように押したり引いたりを繰り返す。
ギシギシという金属の撓む音が結構な耳障りな音で周囲に響き渡るので、あまり強くはできない。ギシギシ音と周囲の生活音が混ざり合い、生活音に打ち負けるぐらいの音量がバレない加減であるので、微妙な塩梅を保ちながらドアを揺すり動かし、固着を段階的にほぐしていく。
タイムカプセルの中の昭和の滞留していた空気が、一気に押し出されて来た。特にこれといった臭いは無かったが。
こうも車内に荷物が散乱している理由はなんなのだろうか。
運転席のシートには花瓶。
ガソリンスタンドのご主人が若葉マークだった!? いいや、御夫人か、売り物か、どちらかだろう。
写真の車はエンブレムを見てフォルクスワーゲンの「ゴルフ」かなと思うものの、個人的に見たことが無いぐらいの古そうな車種。
インパネには丸形のシンプルなアナログメーターが整然と並ぶ。
ODOメーターは、こんな旧車ながらたったの56316km。ご主人が天に召された時から刻まれていないとしたらそれも当たり前か。
後部座席に、愛息子のか、孫のであるのか、プラレール亜種のセットが。
アメリカ「プレイ・スクール社提携」とあるので、こっちが本家なのかもしれない。
これで育った息子さん、お孫さん、お爺様は大事に、保管されてくれていますよ。読んでいたら、どうか、一刻も早く、駆けつけてあげて下さい!!
セットの蓋を開けるのは、お爺様と息子孫達の思い出を踏みにじるような気もしないではなかったが、日本のどこかにいるであろう関係者の目をこちらに向けるためにも、やむ無しだろうと、心苦しいながらも、控えめに、そっと開けてみることにした。
寸分違わず、プラレールであった。この時代の日本製品のパクリオンパレードは今の中国のことをとてもじゃないが笑えないので、特にこれを前にして驚くようなことはなかった。
※とみやま商事はトミーの前身の会社だということです。鉄チン様、ご情報ありがとうございます。
あなたの幼少の頃の思い出、ダットサン・ブルーバードの車内に、眠っていました
何がガソリンスタンド・オーナ主人の身に降り掛かったのか。
おもちゃに鍋にカバンまで。
昭和57年は1982年。
高速道路などの料金表。
ETCのような便利な製品の登場を、この時代の何人の人が予測できただろうか。そんな僕は、一回自分で取り付けたら、ものの数年で壊れてしまい、以来、ETC未搭載で走ってます。
車内で一応の手応えを得た僕は、満足感とともに車外へ出ることにした。手順は踏んだ。次に行くべき場所に行く時が来たのだと。
気がかりだったのは、車同様、そう容易く玄関から入れるだろうかということ。
施錠されてやしないだろうか。
その前に、玄関の前には、大きな木製の昔ながらの茶箱が扉の前に立ち塞がるように置かれていた。
茶箱の蓋を開けてみることに
つづく…
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コメント
コメント一覧 (17)
カイラス
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カイラス
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この車の位置づけが分かり辛いようなので補足すると、他の方が仰るようにゴルフのクーペ版といった性格なので、日本で言うならばカローラレビン/スプリンタートレノや、ホンダのシビックに対するCR-Xのような位置づけの車だと考えると分かりやすいです。ちなみに前回りだけを見るとゴルフに似ていますが、横や後ろから見ると全く違う車だと分かるほど違います。これもシビックとCR-Xの関係を例にすると分かりやすいです。
日本では超マイナーで、叔父さんは『人とは違った輸入車』に乗りたくて乗っていたそうですが、その後、4駆ブームになるとトヨタのハイラックスにあっさり乗り換えました(笑)。
カイラス
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スーパーカーです。なんてことはない車ですが、ワーゲンポルシェには乗れないけど
フォルクスワーゲン社が好き。でもかっこいい車は?と言ったらこの車だったのでしょう。
BMWのタイヤはスタッドレスタイヤにも見えますが、この時代にスタッドレスがあったのでしょうか?
5万キロですか・・大切に乗っていたのでしょうね。
カイラス
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https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/72/7df5a161696c80e3a17b51b3118f86f7.jpg
ホンダシビックに対する同社アコード的存在でしょうか。
カイラス
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カイラスさん、大分と身体が回復されたようですが、油断なさらずに静養しつつお過ごしくださいね…!
こちら道東は、5月に一時、異常な暑さになりまして、もしや夏はそれで終わりかな?…と考えていましたが甘かったです(>_<) この一週間は、殺人的な暑さで一日に何度もシャワーを浴びてしのぎました。それまでは私、夜は湯タンポを持って寝ていたのに…!です(^_^;)
何とか私達も、牛も馬も犬も生き延びました。夏に恐怖を感じたのは初めてです。
こちらの記事で一番目についたのは、車内のお菓子の紙袋です!
今のデパートのない暮らしでは買えない、洋菓子(アンリ)の見慣れた袋ではないですか❤こちらのクリームビスキュイは、私の大好物なんです…!(*^^*)誰か親戚に頂いたか、何か分かりませんが嬉しくなりました。
車のレールのオモチャは、電動のを子供に リサイクルで買いましたが手動のを後から人に頂きました。電動でなくても、子供は喜びますね。
子供の視線と大人の目線の違いには、最近よく考えさせられます。
何事も、子供の様に新鮮に喜べたら良いですね♪
どの記事も、いつも変わらず、楽しみにしております(^^)
カイラス
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再度写真見ていて気付いたのですが、煙草ラークの箱が写ってますが箱の下の方に「喫煙はなんちゃら。」の文章があるようですね、いつ頃からだったのかは覚えていませんが、平成になってからだったような気がするのですが、30年前にはまだなかったような気がして仕方ありません。
ちゅうことは車検が切れた58年頃以降に誰かが荷物を置いたよです。
何だか謎の多い車両ですね。
何だか色んな年代が在って面白そうな物件でワクワクしますです。
カイラス
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見た事の無いブルのコックピット、これだけでどんぶり飯が何杯行ける事やら。
実走5万6千は少ないですね、15万6千はこの時代の車では、うーんキッチリ整備出来ればありうるのかなぁ?スタンド経営されていれば整備はできるでしょうが、複数持ちでしたら5万6千なのですかね。
それよりも今回気になったのがプラレール、自分が餓鬼の頃の物です昭和40年代前半、この頃はまだ電池で自走する車両は開発されておらず、手でゴロゴロ押して遊ぶちゅうアナログ玩具だったのですよ。
昭和57年の料金表、57年の車両点検整備章からすると時代的にプラレールは15年近く間が有りますよね、オーナーさんのお子さんが遊んでいたものなのかなぁ?
ブルだけでなくプラレールも譲って欲しくなった蘭丸与利。
追伸。
我が職場は連日38度越えで毎日軽い熱中症でふ、カイラス殿のお宅もそんなに遠くでないですよね、真っ昼間の外出は気を付けてくださいね。
カイラス
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カイラス
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