テスラの蓄電池「パワーウォール」「メガパック」のコストはお得?

自宅用蓄電システム設置を考える際に、気になるのはコストです。本体価格は他メーカーに比べて安いテスラのパワーウォールですが、寿命まで使った際のkWh当たりのコストはお得なのでしょうか。CleanTechnicaの検証記事を全文翻訳でお届けします。

テスラの蓄電池「パワーウォール」「メガパック」のコストはお得?

元記事:Tesla Megapack, Powerpack, & Powerwall Battery Storage Prices Per kWh — Exclusive by Zachary Shahan on 『CleanTechnica

EVバッテリーのkWhあたりのコスト

私達(CleanTechnica)はバナジウムフロー電池vsリチウムイオン電池で、長期間の蓄電で生じるコストの違いに関する記事を、テスラCEOのイーロン・マスク氏に「リチウムイオン電池のコストの数値が現時点で5倍、将来的には10倍となっており、大幅に間違っている」と指摘されて取り下げたところです。

しかし、そのおかげで私にはさらなる疑問が湧いてきました。このトピックをより掘り下げ、バッテリー価格と長期コストの文脈で共有できる新しい情報も入手しました。

イーロン氏からこれまで公にされていなかった情報を含むテスラの蓄電価格に関する詳細を得たのに加え、StorEn Technologies(バナジウムフロー電池を製造する会社)の予測についても聞きました。

まず初めに、大きな誤解を解くためにもいくつか指摘をしておきたいと思います。一番大きなものは『電気自動車バッテリーのkWhあたりのコスト($/kWh)は、据え置き型の蓄電システムのコストと全く同じではない』というものです。

さらに、$/kWhには2種類あります。1つ目は1度に貯蔵できるエネルギー量と初期費用にかかるコストをベースにしたもの(例えば100kWhの容量で初期費用が5,000ドル(52万5000円 ※1ドル=約105円)だとすると、その数値は$50/kWh(5250円/kWh)になります)。

2つ目は貯蔵システムの寿命が来るまでにかかる実際のkWhあたりのコストです。後者を求めるには、システムのサイクル数と寿命を計算する必要があります(実際には、効率性、メンテナンス、修理など他にも考慮する点があります)。私はテスラのパワーウォールが登場した2015年に、パワーウォール vs 主な他メーカーの蓄電システムで計算しました。どのような計算をするのかよく知りたい方はこの記事を読んでみてください。

冒頭で触れた記事の価格予想に関してのイーロンの返事は次のようなものでした。「リチウムイオン電池は普通$600~900/kWhかかり、3,000~4,000サイクルもちます。よって、サイクル当たりの平均コストは$0.21(約22円)になります。」

電気自動車市場、特にEVバッテリー価格に造詣が深い人は、この数値($600~$900/kWh)を見て目を剥いたことでしょう。しかしこれはEV向けのリチウムイオンバッテリーではなく、蓄電システム価格で、かなり違うものです。さらに、これは”コミコミ”の値段(蓄電システム全体の値段で、バッテリーセルやパックのみの価格ではない)と個人的に自信を持って言えます。

これらを踏まえた上で、さらに詳しく見ていきましょう。

テスラ パワーパックとメガパックの価格

メガパック。画像はテスラ公式サイトから。

メガパック

ある読者が、パワーパックの価格は現在$539/kWhだとコメントしていました。直近の値下げの後の話ですが、それでも$600/kWh近くします。5倍とまではいきませんが、イーロンの平均$0.21/サイクルの根拠となる$750/kWhよりはかなり低い数値です。そうです、この$539/kWh はインバーターのコストを含んでいるのですが、StorEnは特にバナジウムフロー電池がシステム全体のコストに焦点を当てた方が有利であるため、そのような計算をしたと私は思っています。またこれはさらに大きな利益にも繋がるのですがそれについては後で触れることとしましょう。

テスラ・パワーパックについての私の質問に対し、イーロン・マスク氏は新しく面白い情報をいくつか提供してくれました。

「パワーパックは古い商品です。電力会社や工業規模の顧客に現在送っているのはメガパックになります。」

「バッテリーパックそのもののコストは$200/kWhになります。パワーエレクトロニクスと、使用期間の15~20年を考慮に入れるとコストは大まかに言って$300/kWhになります。ただ、バナジウムフロー電池vsリチウム電池、パワーエレクトロニクス、15~20年利用では正確な比較はできないでしょう。」

ここでもう一度書いておきますが、StorEnがオールイン、システム全体のコストとして言及しているものを私は読んだのです。そこを明確にしたく先方にコンタクトを取ったので、返事が来たらこの記事をアップデートしたいと思います。

さらに、寿命が来るまでの全体のコストを考えなければなりません。上で書いたように、イーロンは15~20年の使用期間を想定しています。StorEnは25年の寿命で500kWhのシステム、最高で15,000サイクルに言及しています。長期にわたるkWhごとのコストとしては、どうなるのでしょうか?

ST 50-500システムの価格が分からないため、その答えは出ません。 しかし別の記事で、SrorEnはバナジウムフロー電池のコストは1サイクルで$0.04/kWhで、最大15,000サイクルになると記していました。ということは、コストは$600/kWhになります。(面白いことに、これはStorEnのリチウムイオン電池の見積もりの最低コストとなっています。)

StorEn presents TitanStack™ for Grid-Scale Applications(YouTube)

もしStorEnから価格の詳細を得られれば、この記事に追記をするか、新しい記事を書くことにします。またメガパックのkWhあたりの価格も計算してみるかもしれません。

パワーウォールのスペックと価格

テスラ パワーウォール。画像はテスラ公式サイトより。

StorEnは住宅向け・小型のものと、電気事業者規模、両方の蓄電商品を手掛けています。そこで、わがチームのライターが(2つ)持っている自宅用蓄電池であるテスラのパワーウォールについて考えてみましょう。

ライターのKyle Fieldは、13.5kWhのパワーウォール1台に6,500ドル払いました。テスラ・ゲートウェイや設置コストは含まれていません。よってコストは$481.48/kWhになります。ただし最近価格が上がり、今はゲートウェイや設置コスト(テスラソーラールーフトップシステムを含めて3,500ドル、もしくは4,500ドル)なしで7,000ドルとなります。この価格だと、コストは$518.52/kWh となります。これでも、最低予想コストの$600kWhよりも低いですね。しかし(イーロンが言った価格の)5分の1ではありません。ゲートウェイのコストをここで入れるべきか、私には判断が付きません。特にこれらの商品と数値を、何と比較すれば良いのか明確ではないので。

StorEnにはバナジウムフロー電池の価格を教えてくれるよう頼みましたが、まだ分かりません。

他にも考慮すべきスペックや約束事があります。SroEnのバッテリーは25年ものとされているのに対し、パワーウォールの保証期間は10年です。

StorEnは最大15,000サイクルと言い、テスラ・パワーウォール1のサイクルは最大5,000でした。パワーウォール2は太陽光での自家発電・消費用に関しては無制限サイクル、他のアプリケーション用には37.8MWhまでとなっています。37.8MWhが充電と放電両方での数値として計算すると、前者が10年で最高3,100サイクル、後者で3,200サイクルです。

最後に考慮すべきスペックとして、パワーウォールの放充電効率は90%、StorEnのシステムの放充電効率は75-80%となります。

商品寿命が来るまでのkWh当たりの正確なコストはあと少しで分かりそうです。もう少し詳細が分かった際には、このセクションをアップデートするか、新しい記事を書くつもりです。

結論

これらの蓄電システムをもう少し丁寧に比較をするには必要な情報がいくつか抜けているのですが、核になる部分の結論は以下の通りです。

●イーロン・マスク氏から私が受け取った今日のコメントによると、パワーエレクトロニクスとサービス込みでメガパックのコストは現時点で$200/kWh以下、もしくは$300/kWh以下で、パワーパックの最新コストと考えられている$539/kWhよりも相当低くなります。

●パワーウォールのコストは今年前半の$481.48/kWhから$518.52/kWhになりましたが、ここにはテスラ・ゲートウェイや設置費用は含まれていません。

ここまでの情報では、システムの寿命が来るまでに貯蔵されるトータルの電気量にかかるコストが分かりません。これを求めるにはいくつかの要素を加える必要がありますが、10~20年をかけて推測しなければならない難しいものもあります。効率性、放電がどこまでされるか、サイクル数、メンテナンスと修理コストなどです。

取り下げた記事よりもある程度明確になっていると良いのですが……このトピックに関して十分な情報が集まったら、また記事を書こうと思います。

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 電気技術者(電験持ち)はシステム価格の高さを知っているのでセルとシステムの価格差は容易に想像できますが…まだパワーエレクトロニクスのシステム価格が高止まりしてますね。当然少量生産によるシステム開発費や半導体素子価格・新技術研究費などが上乗せされているからでしょうが。
    ただそれらもシステムを小型化量産化され品質も安定すれば安く普及できますよ。今はまだその途中ってだけ。

    ちなみに高圧自家用ソーラー発電システムを設置する目安は、システム価格が予想できる総電力量の20年分以下であることが条件。根拠は発電専用ソーラーの電力固定買取価格が20年までだからですが…災害破損も考えると10~12年以内に収めることになるので最近は新設が減ってきました。このように対費用効果を計算しないとダメですね。
    パワーウォールも当初安いと考えられていましたが設置費も含めると決して安上がりではなさそうです。蓄電池容量・システム減価償却・屋根ソーラー発電容量・自宅の築年も考えないと損もありえますから。当家は計算上リーフ30~40kWh(中古)+V2Hで凌ぐのが対費用効果最善と出ました。ただそのときに24kWh中古しか見つからなければ若干損を見繕うしかないですが。
    文面見る限り電力変換装置が寿命短いですね…これを定期交換経費と考えられる人なら得するかもしれませんが。、そこに頭が回らないと損しそうですね。さらに自宅に電気工事士経験者が居れば自力交換で安く運用できそうですが…そう考えると蓄電や電気自動車運用は理工系現場人間じゃないと厳しいかと思った。

  2. ちょうど、今日の菅総理の所信表明演説に2050年に”Carbon Offset”というのが出てきて、特に発電所や節電も含めた電気周りの物事が日本でも大きく動くことになりそうです。
    蓄電池や、太陽光パネルもそうですが、電池やパネル以外に「付帯して」必要になる機器やらが結構ありますし、工事代もかかります。
    日本で考えた場合、例えば輸入品なら日本の法令に合わせるためのmodifyも必要になるでしょう。
    本気でいろいろなことを一歩進めたいなら、いま日本で手に入る家庭用蓄電池システム(国産・輸入品問わず)の”Lifetime Aii-in Cost”をきちんと調べて、比較公開する、それくらいのことを経産省なんかがやればいいんですよ、あとは、国交省が建築許可の要件に組み込むとかもね。たぶんやらないでしょうけど。

  3. いつもありがとうございます。
    パワーパックは日本では販売中止と聞いてますが、再開される見通しはあるのでしょうか。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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