突然届き始めた15万円小切手 見えた「米国らしさ」

聞き手・土屋亮
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 コロナ禍で生活に苦しむ人への支援策として、1人あたり最大1400ドル(15万円余り)を政府が支給する――。そんなバイデン政権の政策で、米国政府が発行した小切手が4月以降、日本の高齢者らのもとに次々と届いている。受給資格があるのは原則、米国市民や米国在住者で、多くは誤配とみられるが、なぜこんなことが起きたのか。年金など日米間の社会保障に詳しい「海外年金相談センター」の市川俊治代表に、事情や背景などを解説してもらった。

 ――ある日突然、小切手が入った英語の封書が届き、戸惑っている方が多いようです。

 「封書の中には小切手だけで、説明文がないですからね。その小切手にも「コロナ対策」などの文言がなく、面食らうのは当然だと思います。『アメリカは太っ腹だな』と誤解した人も多くいたようです」

 ――なぜ日本にいる日本人にまで小切手が届くのですか。

 「管轄する米国の内国歳入庁(IRS)が公式に説明をしていないので断定はできませんが、コロナで経済苦に陥っている人に、いち早く小切手を届けることを優先したのでしょう。米国政府が年金を支払い、住所も把握している人にまで、送付の対象を広げたためではないかと思います。日本には、かつて仕事などで米国に住んでいた時に社会保障税を払い、現在、日米の協定に基づき米国政府からも年金を受け取っている人がいて、そうした人にも小切手が届いています」

 ――送る前にチェックをしなかったのでしょうか。

 「スピードを重視したのでしょう。対象外の人に誤って届くのは織り込み済みで、弊害が出たら、その都度対応するという考え方です。ちょっと日本人の感覚ではびっくりしてしまいますが、何を大事と考えるかの日米間の価値観の違いでしょう。いかにも米国らしいとも言えます」

 ――その都度対応するとは、具体的には誤って届けられた人に何をしてもらうのですか。

 「小切手をIRSの拠点に送り返してもらうということです。もし間違って換金してしまった場合には、その人には、同じ金額分の小切手をIRSに送付してもらう。これらの対処法は、IRSのホームページに載っています」

 ――こうした事態が起きているのは、日本だけなのでしょうか。

 「他国でも同様の事態が起きているでしょうが、この事案で日本での影響は大きいとみています。米国の社会保障局によると、海外在住で米国の年金を受け取っている人が最も多いのはカナダで11万人。その次が日本で9万人もいます。次いで、メキシコが6万人、ドイツが4万人という順番です。日米の経済関係の深さとともに、日本人の場合は米国で働いていても米国に骨を埋めず、母国に帰ってくる人が多いという事情があるのだろうと思います」

 ――日本では最大9万人に誤配があった可能性があるということですか。

 「この中には日本在住の米国人なども含まれていますので、全員が誤配とは言えません。このうち、日米間の年金の協定に基づいて米国から年金を受け取っている日本在住者が7万人近くいます。この層には日本企業の駐在員経験者らが多く、その大半は今回の給付の対象外だと思います」

 ――本来は対象外なのに小切手を受け取った人は、どうすればいいのでしょうか。

 「1年たてば小切手は効力を失いますが、一番いいのは、小切手に「VOID(無効)」と書き込み、米テキサス州オースティンのIRS拠点(Austin Internal Revenue Service 3651 S Interregional Hwy 35 Austin, TX 78741 USA)に郵便で送り返すことでしょう。実は私も米国駐在経験があり、小切手を受け取りましたが、送り返します」

 ――手間がかかりますね。

 「誤配をするくらいですから、米国のやり方はずさんに見えますが、仮に対象外なのに小切手を換金した場合、あとで調査される可能性はあります。米国から年金を受け取っている人は今後も米国とのかかわりが続くわけですから、リスクをなくすには返送が望ましいと思います」(聞き手・土屋亮

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