トヨタ「米国VCが大成功」の未来 自動運転企業へ出資、IPOラッシュへ!?

出資先との協業の動きも盛んに



トヨタ自動車の豊田章男社長=出典:トヨタ自動車ニュースリリース

AIや自動運転、ロボティクス領域などを対象にしたトヨタグループのベンチャーファンド「Toyota Ventures」(旧Toyota AI Ventures)が着実に成果を上げているようだ。自動運転技術の実用化とともに各社の研究開発も実装段階に近づき、独自技術や企業価値をどんどん高めている。

この記事では、有力な各投資先の動向とともに、Toyota Venturesにおける投資の状況をまとめてみた。


■Toyota Venturesの概要
運用総額5億ドル規模に

Toyota Ventures (旧TAIV)は、米国でAI(人工知能)をはじめとした先端技術の研究開発を行っているToyota Research Instituteが1億ドル(約105億円)を投じ、ベンチャー企業への投資を目的としたベンチャーキャピタルファンドで、2017年に設立された。AI、ロボティクス、自動運転・モビリティサービスおよびデータ・クラウド技術の4分野において、設立間もない有望ベンチャーへの投資を行っている。1号ファンドでは、2019年5月までに計19社に投資を行っている。

2019年5月には、1億ドル(約105億円)の2号ファンド設立を発表した。モビリティにおける最新のイノベーションを促進するとともに、投資先企業の長期的な成功に向けた支援を拡大していくとした。

2021年6月には、カーボンニュートラル実現という目標に向け、グローバル投資ファンド「Toyota Ventures Climate Fund」を設立したと発表した。運用総額は約1.5億ドル(約160億円)で、カーボンニュートラルに取り組む企業を対象に投資していく方針としている。

また、カーボンニュートラル向けのファンドとは別に、AIなどの既存投資事業にも新たに1.5億ドル(約160億円)規模のファンドを立ち上げたとしている。これらのファンドの運用額を合わせると、総額は5億ドル規模となる。


■着々と成果を上げる投資先

ファンド設立から約4年が経過したが、成果はすでに表れ始めている。早い段階から投資を行っている米Joby AviationやBlackmore、May Mobilityなどだ。トヨタとの協業やIPO(新規株式公開)、買収を通じた技術提供など、さまざまな形で企業価値や技術評価を高めている。

Joby Aviation:SPAC上場する計画を発表

eVTOL(電動垂直離着陸機)開発を手掛けるJoby Aviationは2020年1月、トヨタとeVTOL実用化・量産化に向け協業することを発表した。トヨタは生産技術の見地から設計や素材、電動化の技術開発に関わり、最終的には高品質なeVTOLの量産化とともに空のモビリティ事業への参入を検討していく方針だ。

合わせて、Jobyが実施した資金調達Cラウンドでリードインベスターを務め、3.94億ドル(約430億ドル)の出資を行ったことも発表している。

Jobyは2021年3月、ニューヨーク証券取引所へSPAC上場する計画も発表している。その場合、大株主となるトヨタにパートナーシップとは別の利益をもたらすことも十分考えられそうだ。


【参考】Joby Aviationについては「「空飛ぶクルマ」開発の米Joby Aviationが上場へ トヨタも出資」も参照。

Blackmore:Aurora Innovationが買収

周波数変調を用いる「FM」方式のLiDARやソフトウェア開発などを手掛けるBlackmoreは2019年、自動運転開発を進める米Aurora Innovationに買収された。新開発した「FirstLight LiDAR」がAuroraの試験車両に実装されるなど、自動運転システム実用化に向け大きく貢献しているようだ。

ちなみにAuroraはその後、トヨタやデンソーらが出資する米Uber Advanced Technologies Groupも買収している。その流れでトヨタ、デンソーと提携し、Auroraの自動運転システム「Aurora Driver」を搭載したトヨタ・シエナのフリートを設計・構築し、将来的にUberの配車ネットワークへの導入などを目指す構えで、間接的ながらBlackmoreもトヨタとの連携のもと成果を出している。

【参考】AuroraとBlackmoreについては「自動運転開発のAurora、止まらない買収攻勢!LiDAR企業をさらに1社吸収」も参照。

May Mobility:将来IPOを実施する可能性は十分

自動運転シャトルバスの開発を進めるMay Mobilityに対しては、2019年12月に発表された同社の資金調達Bラウンドでトヨタがリードインベスターを務めている。2020年12月には、MONET Technologiesらが広島県東広島市で取り組む自動運転シャトルの実証実験にMay Mobilityの車両が採用された。

また、2021年1月には、レクサスRX450hをベースにした新たなシャトルを開発し、フリートに追加していくことも発表している。着実にトヨタグループと結びつきながら業績を上げている印象だ。

今のところIPOなどの話は出ていないが、将来IPOを行えば、Joby同様、株主としての利益をトヨタにもたらすことが考えられる。

■将来性豊かな投資先

Toyota Ventures の公式サイトによると、2021年6月時点で同社が投資する企業は買収済みのBlackmore を含め33社掲載されている。

トヨタ系ファンドならではのポートフォリオで、自動運転関連のスタートアップが多く名を連ねている。この中から有力企業をピックアップし、紹介していく。

Boxbot

テスラやウーバー出身のエンジニアが2016年に設立したBoxbotは、自動運転技術やロボット工学を活用し、ファーストマイルからラストマイルに至る物流の自動化システムを開発している。

同社が開発を進める配送用自動運転車は、荷台部分にロッカーのように区分けされたボックスが並んでおり、一つひとつのボックスを複数の利用者が独立して利用できる仕組みとなっている。

Cartica

ADAS(先進運転支援システム)や自動運転、ローカリゼーション向けにコンピュータービジョンベースの認識システム開発を進めているイスラエルのスタートアップ。同社のビジュアルインテリジェンスプラットフォームは200を超える特許に裏付けされており、霧や雨、雪、夜などあらゆる天候や照明条件で高精度の認識能力を発揮するという。

Recogni

AIを活用した視覚認識プラットフォーム開発などを手掛ける米スタートアップ。同社が開発した「Vision Cognition Module」は、省電力で長距離検出を可能にするという。トヨタのほか、BMWやボッシュ、コンチネンタルなどからも投資を受ける有力企業だ。

Metawave

高度なレーダー技術の開発を手掛ける米スタートアップで、独自のAIソフトウェアによってセンシングやワイヤレス通信にイノベーションを起こすとしている。

近接した物体を識別できる最初のアナログビームステアリングレーダーシステム「SPEKTRA」や、より高速で効率的な5G展開を可能にする「KLONEパッシブリフレクター」や「TURBOアクティブリピーター」などが代表的だ。

デンソーからも出資を受けており、Metawaveが有するレーダー検知範囲の拡大や認識性能の向上、小型化を実現するコア技術を活用し、ミリ波レーダー開発を加速させるとしている。

Parallel Domain

自動運転開発向けのシミュレーター開発を手掛ける米スタートアップ。自動運転システムを強化できる仮想環境プラットフォームで、さまざまなユースケースに対応した注釈付きの豊富な合成データを提供している。

創業者兼CEOのKevin McNamara氏はマイクロソフトやアップル出身のエンジニアで、アップルでは自動運転開発に携わっていた。

Perceptive Automata

人間の行動を予測するAI開発などを手掛ける米スタートアップで、行動科学とコンピュータービジョンの技術を組み合わせ、自動運転領域において高速かつ信頼性の高いAIを提供する。

自動運転スタックに統合される同社のAI推論モデル「State of Mind AI」は、人間らしいソーシャルドライビングアクションを実現するほか、歩行者進路の予測や横断歩道予測などを取り入れることで自動運転の安全性をより高いものへと変えていくようだ。

SLAMcore

センサー情報を空間インテリジェンスに変換するSLAM技術開発を手掛ける英スタートアップで、位置情報や周辺の物体認識の領域で高精度測位やマッピングインテリジェンスを提供している。

Sea Machines Robotics

海における自動運転化を促進する米スタートアップで、作業船や商用水上船舶などの高度な制御技術を専門に開発を進めている。

なじみが薄いかもしれないが、トヨタはマリン事業としてクルーザーやボートの開発・製品化も行っている。Jobyとの提携で空、Sea Machines Roboticsとの提携で海の自動化を図り、陸・海・空を制覇する壮大なビジョンを秘めているのかもしれない。

Third Wave

自律型フォークリフトの開発などを手掛ける米スタートアップ。機械学習やコンピュータービジョン、ロボットによるマテリアルハンドリング技術などを駆使したハードウェア・ソフトウェアの開発を進めている。

環境の変化に動的に対応し、その場でルート計画を立てるガイドパス不要なナビゲーションシステムや、各ロケーションのプロセスやフロアプラン、ラックとパレットの構成などさまざまな状況に応じて学習を重ね、精度を増していくAIならではの能力でファクトリーオートメーションを加速させるとしている。

COBALT

自律走行可能な警備ロボットの開発を進める米スタートアップで、ロボットとソフトウェア、コマンドセンターによる年中無休のサポート、メンテナンスをセットで提供している。最先端の自動運転技術を使用して自律的に空間をナビゲートし、エスカレーションする異常を特定する。分析に必要となるカスタマイズ可能なセキュリティレポートもしっかりと作成する。

■【まとめ】トヨタとの協業で相乗効果発揮

トヨタ系列の投資部門というだけあって、自動運転と結びつく技術開発を進めているスタートアップが多い印象だ。金銭面のみならず、Jobyのようにトヨタとの具体的な協業に至れば大きな相乗効果を創出する。単純な投資や水面下での共同開発などを脱し、本格的な協業に至るケースは今後も続くものと思われる。

また、LiDAR開発スタートアップに代表されるように自動運転分野におけるIPOも目立ってきており、独り立ちするとともにトヨタに大きなインセンティブをもたらす例も増加することが考えられる。引き続き各社の動向に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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