試乗レポート

フォルクスワーゲン、新型「ゴルフ」(8代目)デビュー 48VマイルドハイブリッドのeTSI

電動化とデジタル化と運転支援強化

 ベンチマークと呼ばれる「ゴルフ」がモデルチェンジとなれば、自動車業界全体にとっても一大事。日本でも輸入車の車種別販売ランキングでベストセラーの常連となっているくらいなので、過去や現在ゴルフに乗っていて、新しいゴルフがどんなクルマになのか、気になっている人も大勢いるはずだ。

 2019年秋に欧州で発売されたゴルフ8は、ほどなく日本でもテスト車両の目撃情報があったものの、コロナ禍や半導体問題の影響もあって、正式な導入まで1年半もかかってしまったわけだが、モデルチェンジのポイントは電動化とデジタル化、そして運転支援強化という3点にある。

 外見は基本フォルムがゴルフ5以降に共通する雰囲気で、太いCピラーや広いグラスエリアなどの特徴も受け継いでいながらも、フロントまわりがガラリと変わって、これまでよりも低くワイドな印象となり、間もなく日本にも導入予定のIDシリーズに似たフラットなデザインになった。ゴルフ5、6、7はパッと見ではどの世代か判別が難しいが、ゴルフ8は一目瞭然だ。

 スリーサイズは従来モデルから30mm長く、10mm狭く、5mm低くなった。わずか10mmとはいえ全幅が1800mmを切ったのは、日本では大いに歓迎されることだろう。空力も新旧比でCd値が1割近くも向上しているというので、まだそうした余地があったことにも驚く。

今回試乗したのは6月15日に発売された第8世代となる新型「ゴルフ」。撮影車は直列3気筒DOHC 1.0リッターターボにモーターを組み合わせる48Vマイルドハイブリッド仕様の「eTSI Active」(312万5000円)で、ボディサイズは全グレード共通で4295×1790×1475mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm
新型ゴルフでは風洞実験室であらゆる面が見直されて前面投影面積は2.21m2に、Cd値は先代モデルの0.3から0.275に低減。外観ではスリムになったラジエータグリル、ドアハンドルを経由してリアへと伸びるシャープなスライスラインなどを採用するとともに、ライト類には全グレードにLEDを装備。eTSI Active BasicおよびeTSI Activeは16インチアルミホイール+205/55 R16サイズのタイヤを装着

 ゴルフらしさを残す外観に対し、インテリアは大きく変わってゴルフっぽくなくなった。先進的なデジタルコクピットは見てのとおりで、シフトセレクターはコンパクトになり、インパネもドライバーに向けられ挑戦的なデザインとされた。加えて、左足の周辺に余裕ができたほか、心なしかドライビングポジションがよくなり、Aピラーの付け根に設けられた小窓が良好な視界に効いていたりと細かな改良も見られる。

 実のところ新しいユーザーインターフェースはあまりに斬新で、短時間の試乗では戸惑う面も多く、本来の価値を味わうまでにはいたらなかったのだが、おそらく慣れると狙いどおり直感的に操作できることと思う。

eTSI Activeのインテリア。新型ゴルフでは10.25インチディスプレイを備えたデジタルメータークラスター「Digital Cockpit Pro(デジタル コクピット プロ)」、インフォテイメントシステム(1560×700ピクセルの10インチタッチスクリーン)、マルチファンクションステアリングを全車に標準装備するなどデジタル化が推し進められた
7速DSGのシフトレバーはシフトバイワイヤー化され、シフトレバーが大幅に小型化
空調やナビゲーションの操作などに使えるタッチスライダーを新たに用意。左、中央、右の3セクションに分かれるタッチスライダーはセンターコンソール中央にレイアウトされ、温度設定や音量調整などが行なえる。また、空調や走行モードなどは独立した物理スイッチからすぐに呼び出すことも可能

DSGにBSGが効く!

 日本向けの導入モデルは、パワートレーンが2種類用意され、それぞれ足まわりもリアサスがマルチリンクとビーム式とされており、タイヤサイズも異なる。R-Lineにはさらに専用のスポーツサスペンションが与えられており、乗り味もそれ相応にキャラクターが異なるが、いろいろ感心されられる点が多々あったことを、あらかじめお伝えしておきたい。

 いずれのエンジンも、48Vマイルドハイブリッド化の恩恵が想像以上に大きかった。シングルプレート×2のDCTだと、どうしても発進~微速から加速しようとしたときにもたつきが生じがちなところ、そこをBSG(ベルト駆動式スタータージェネレーター)がうまくカバーしており、リニアにレスポンスするので、とても乗りやすい。

 さらには、どちらのエンジンが好みかと聞かれればそれは1.5リッター4気筒なのだが、1.0リッター3気筒が従来とは別物といえるほど大きく改善されていたことにも驚いた。もっと騒々しくて振動すると思っていたのに、ぜんぜん気にならない程度に抑えられていたからだ。これならゴルフに積んでも問題ない。技術の進化たるや恐るべしだ。

「eTSI Active Basic」「eTSI Active」が搭載する直列3気筒DOHC 1.0リッターターボエンジンは、最高出力81kW(110PS)/5500rpm、最大トルク200Nm(20.4kgfm)/2000-3000rpmを発生。WLTCモード燃費は18.6km/L
「eTSI Style」「eTSI R-Line」が搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッターターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1500-3500rpmを発生。WLTCモード燃費は17.3km/L

 エココースティング機能によりエンジンは頻繁に停止するが、あまりにスムーズに再始動するので音や振動も気にならない。DSGとの組み合わせとなるとなおのこと、トルク変動が生じでギクシャクするのではと危惧していたのに、ほとんど気になることはない。スペック的には控えめなBSGの能力を最大限に引き出して、なめらかでリニアな走りを実現していることに感心した。ただし、回生をともなうブレーキフィールにはもう少し改善の余地がある。

セオリーどおりの違い

 足まわりの仕様による乗り味の違いはセオリーどおりとして、これまたエントリーモデルのバランスのよさに感心した。むろんマルチリンクはストローク感がありロードホールディング性に優れることには違いないが、トーションビームでも従来見受けられた突き上げや微振動が減って、ファミリーカーとしても十分な快適性が確保されている。

 スポーツサスペンションやプログレッシブステアリングが与えられるR-Lineは、より俊敏なハンドリングを楽しむことができる。やや硬めの乗り心地や専用の内外装ともども、そうしたテイストを好む人の期待に応える味付けだ。

「eTSI R-Line」(377万5000円)はリアサスペンションに4リンクを採用するとともに、ホイールは17インチをセット。R-Lineのみプログレッシブステアリングシステムを採用したことでロック・トゥ・ロックは2回転となり、センターレシオはさらにダイレクトな14.1の設定

 正確性に優れるハンドリングは全車に共通する。それも、コーナリングでも操舵したとおりヨーがリニアに立ち上がっても横Gはあまり生じず、ツイスティに切り返しても挙動の乱れにくくバネ上がキレイについてくる絶妙な味付け。3通りの組み合わせを乗り比べたところ、むろん好みは分かれるだろうが、マッチングとしては16インチタイヤを履く「Active」がもっともよいように感じられた。

 運転支援技術については、より機能の充実した「トラベルアシスト」により長距離のドライブでの負荷が小さくなることが期待できる。ディスプレイに周囲の交通や機能の作動状況が先進的に分かりやすく表示されるのも大きな進化点だ。ステアリングホイールのタッチセンサーが静電容量式になったことで、ちゃんと持っているのに警告が発せられるようなことがなくなったのもありがたい。

先進の安全装備については、同一車線内全車速運転支援システム「Travel Assist(トラベル アシスト)」をはじめ、レーンキープアシストシステム「Lane Assist(レーンアシスト)」、プリクラッシュブレーキシステム「Front Assist(フロントアシスト)」(歩行者&サイクリスト検知対応シティエマージェンシーブレーキ機能付き)などを標準装備。Digital Cockpit Proの表示をTravel Assistモードに切り替えると、前走車だけでなく両脇の車線の状況をリアルタイムで描写することも可能

 こうしてデジタル化、電動化、運転支援技術の強化をはたしたゴルフ8は、たしかに多くの点で新しさを実感する進化を遂げていて、いろいろ感心させられた。その進化のほどは、おそらく筆者だけでなく歴代ゴルフをよく知る多くの人にとっても予想を上まわるものであろう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛