一気に進むEVシフト ルノーのプランはうまくいく?
2021.07.19 デイリーコラムまずは4WDハッチバックから
既報のとおり、仏ルノーは2021年6月30日(現地時間)にオンライン発表会「Renault Eways ELECTROPOP(ルノー・イーウェイズ・エレクトロポップ)」を開催。同発表会において「2030年までにルノーブランド車の90%をバッテリー式電気自動車(EV)にする。そのために、まずは2025年までに、市場競争力がありサステイナブルで大衆的な新型EVを10車種市場投入する」という野心的な計画を発表した。
今回は同時に、すでに具体的なプロトタイプの姿が明らかになっている「メガーヌE-Techエレクトリック(以下メガーヌE)」と「5(サンク)」の2台に加えて、6台の新型EVの“シルエット”が公開された。つまり、2022年発売予定のメガーヌEと2024年発売が公言されているサンクを含めて、ルノーが今後4年以内に市場投入を期する10機種のEVのうち8機種について、なにかしらのヒントが示されたということになる。
また、これらのシルエット画像は通常の1台ずつのパターンに加えて、2~3台ずつをまとめたパターンも3枚、同時に配信された。これらまとめ画像の意味について公式の詳説はないが、メガーヌEを含む2台の画像は「CMF-EV」プラットフォーム車、サンクの頭上に2台がならぶ画像は「CMF-BEV」プラットフォーム車、そしてブルーに照らされたシルエットが3台連なる画像は「アルピーヌ」を意味することは、容易に想像できる。
かねて報じられているとおり、これらルノー新世代EVの第1弾となるのが、2022年発売予定のメガーヌEだ。それは日本の「日産アリア」とプラットフォームを共用する4WDのCセグメントEVで、メガーヌとは名乗るものの、通常のメガーヌの次期型とは別物という説もある。いずれにしても、このメガーヌEの土台となるのがC~Dセグメントサイズを想定したCMF-EVだが、今回はさらに、同じプラットフォーム上に構築されるもう1台のシルエットが公開されたのだ。その画像を見るかぎり、ホイールベースやルーフラインはメガーヌEとよく似ているが、ルーフレールを備えているのが特徴となる。これらの情報を素直に受け取れば、メガーヌEのレジャー性を強調したSUV的な派生型ということだろうか。
続いて、2024年発売といわれているサンクを含めた3台の画像は、メガーヌEより1クラス下のBセグメントを想定したCMF-BEVを土台とするクルマたちだろう。
さらなる妄想が広がる
今回の発表会では6台のシルエットのほか、サンクと共通のCMF-BEVを土台とする新型EVとして「4ever(フォーエバー)」の存在を明らかにもしている。公開されたグリルのイメージデザインやデザイン責任者の言葉から、それが往年の名車「4(キャトル)」をモチーフとした“レトロモダン”デザインのEVであることが分かっている。
サンクとならんだ2台は、フロントエンドからボンネット、フロントウィンドウにいたるラインが共通していることが、そのシルエットからうかがえる。となると、この2台はともにフォーエバーで、ハッチバックと商用バン(フランスでいうフルゴネット)という2つのバリエーションが用意されるといういうことか。
残るブルーに光る3台のシルエットは、前述のとおりアルピーヌと見て間違いない。アルピーヌの具体的な将来戦略については、この2021年1月14日にプレスリリースが出されており、「100%エレクトリック・ドリームガレージ」と称する3台の新型EV計画が公式発表されている。それによれば「CMF-EVをベースとしたCセグメントスポーツクロスオーバーEV」と「CMF-BEVをベースとしたBセグメントホットハッチEV」、そして「ロータスと共同開発する『A110』の後継EV」が、その3台だそうである。
今回公開されたシルエット画像が、まさにそれだ。いちばん上が“Cセグメントスポーツクロスオーバー”と思われるが、想像以上に低く流麗なクーペルックが目をひく。中央がBセグメントホットハッチで、今回のシルエットからサンクがベースであることが事実上判明した。メガーヌE用の高出力モーターが移植されるとの報道もあるが、その車名は「アルピーヌ・サンク」もしくは、1976年代の初代サンクのスポーツモデルにならった「サンク・アルピーヌ」のどちらかだと期待したい。
で、いちばん下の画像がA110の後継となるEVピュアスポーツカーであり、現行A110と同様の猫背ルーフを踏襲しつつも、よりモダンで空力的に有利なフォワードキャビンパッケージにも見える……となると、もしかして現在の2人乗りではなく2+2シーター?……なんて妄想が広がったりもする。
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ルノーの本気が伝わってくる
今回の発表会では、こうしたEVの短期集中・大量投入計画を支えるバッテリー戦略も明らかにされた。中心となるのは、これまで「エスパス」や「セニック」「タリスマン」などを生産してきたドゥエー工場の敷地に、中国エンビジョンAESC社と共同で建設される自前のバッテリー工場だろう。同工場は2024年にオープン予定で、年間生産量を当初は9GWh、2030年には24GWhまで拡大する。ちなみに24GWhを単純計算すると、現在の「日産リーフe+」の40万台分に相当する。
ところで、エンビジョンAESC社はそもそも、日産とNECがリチウムイオンバッテリー開発製造のために共同出資で設立したオートモーティブエナジーサプライ株式会社(AESC)がはじまりだ。そのAESC社が2018年に中国エンビジョングループに譲渡されて生まれたのがエンビジョンAESC社で、本社は今も神奈川県座間市にある。もともとルノー・日産とは縁の深い同社は、日産とも共同で年間9GWh級のバッテリー工場を英国に建設予定だ。
ルノーはそれと同時にフランスのスタートアップ企業であるベルコール(Verkor)社と共同で、大型EVやアルピーヌに向けた高性能バッテリーを開発する計画も進めている。その高性能バッテリーは前記ドゥエー工場とは別のフランス国内の新工場での生産を目指すという。
ルノーはドゥエーに加えて、現在は「カングー」専用であるモブージュと、もともとはAT工場のリュイッツという、フランス北部オー・ド・フランス地方にある3工場を「ルノーエレクトリシティー」というEV子会社に統合する。このようにフランス国内工場を大胆にリニューアルして雇用を拡大することも、今回の強力なEVシフトのメダマのひとつとしている。
今回の発表はその内容を知るほどに、ルノーの本気度がヒシヒシと伝わってくる。すべてが計画どおりなら、その成否が分かりはじめるのも、ほんの数年後である。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー/編集=関 顕也)
佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。