「抵抗の新聞人 桐生悠々」に見た今に通じる教訓 ファッショの暴風の中でも書くべきことを書いた

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(写真:metamorworks/PIXTA)
「国民の命と財産」がまさに危機に瀕したパンデミック下、無為無策に終始した為政者たちは次々と政権を放り出し、いまその筆頭者がキングメーカーを気取り、後釜に居座ろうとする者たちとまたも権力闘争にうつつを抜かしている。(中略)そうして破壊活動に邁進した為政者たちへのささやかな抵抗の記録である――。(『破壊者たちへ』序に代えてより)
闘うジャーナリストが、失意の時代を見つめ、その淵源を射抜き、新たな希望を語る。テレビやラジオのコメンテーターなどとしても活動する青木理氏が、『サンデー毎日』の連載コラムや単発の記事として寄稿した文章を1冊にまとめた時評集『破壊者たちへ』の一部を抜粋し、掲載する。
第1回:東アジア反日武装戦線を追った映画にこもる意味(10月4日配信)
第2回:傲岸なメディア人に堕ちない為に確認したい道標(10月11日配信)

名著復刊

(『サンデー毎日』2021年8月29日号)

悪化の一途を辿るコロナ禍の現状とか、なのに五輪を強行する愚かな政治とか、憂鬱なことばかりの毎日だが、それでも日々生活を紡いでいれば、個人的にうれしいこともたまにはある。かつて黄版の岩波新書で刊行された井出孫六著『抵抗の新聞人 桐生悠々』が復刊されることになり、解説原稿を書かせてもらったのはそのひとつだった。

私の郷里でもある信州の地元紙・信濃毎日新聞で戦前戦中に主筆を務め、「関東防空大演習を嗤う」といった論説で軍部に敢然と抗った桐生悠々については、以前も本コラムで触れたからあらためて詳述はしない。私はこの本をたしか高校時代に読み、記者という仕事に初めて漠然とした憧れを抱いた。少々大袈裟にいえば、この本はメディアとかジャーナリズムと呼ばれる世界に私を誘うきっかけにもなった。

その本が復刊し、解説原稿を委ねられたのだから、これほどうれしい仕事はない。しかも解説の執筆にあたり、著者の井出孫六さんが遺した取材メモや資料類に目を通す機会を得たのは望外の僥倖だった。

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