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愛されて50年! 名車中の名車「カワサキZ1」の魅力をオーナーが語る

2022.01.21 デイリーコラム 後藤 武
1972年に登場した「Z1」こと「カワサキ900Super4」。
1972年に登場した「Z1」こと「カワサキ900Super4」。拡大

先般、カワサキが「Z650RS」など3機種に「Zシリーズ」の50周年記念モデルを設定。懐かしのカラーリングでファンを沸かせた。誕生から半世紀を経てなお、ライダーの胸を熱くする“カワサキのZ”とはどんなバイクだったのか? 「Z1」を所有し続けるオーナーが語った。

「Zシリーズ」の誕生50周年を記念して、カワサキは2022年1月に3機種の50周年記念モデルを発表した。写真はその1台である「Z900RS 50thアニバーサリー」。
「Zシリーズ」の誕生50周年を記念して、カワサキは2022年1月に3機種の50周年記念モデルを発表した。写真はその1台である「Z900RS 50thアニバーサリー」。拡大
1967年に登場した「カワサキ500SSマッハIII」。498ccの2ストローク空冷3気筒エンジンは最高出力59PSを発生。過激でパワフルなカワサキのイメージを、世に植え付けた。
1967年に登場した「カワサキ500SSマッハIII」。498ccの2ストローク空冷3気筒エンジンは最高出力59PSを発生。過激でパワフルなカワサキのイメージを、世に植え付けた。拡大
ホンダが1969年に発表した「ドリームCB750FOUR」。750ccクラスの4気筒SOHCエンジンを搭載した高性能モデルで、2気筒が主流だった従来の大型二輪モデルを、いずれも時代遅れにしてしまった。
ホンダが1969年に発表した「ドリームCB750FOUR」。750ccクラスの4気筒SOHCエンジンを搭載した高性能モデルで、2気筒が主流だった従来の大型二輪モデルを、いずれも時代遅れにしてしまった。拡大
900ccクラスの4気筒エンジンを搭載した「Z1」。ホンダの「CB750FOUR」をも上回るパフォーマンスを披露し、世界中のライダーを驚かせた。
900ccクラスの4気筒エンジンを搭載した「Z1」。ホンダの「CB750FOUR」をも上回るパフォーマンスを披露し、世界中のライダーを驚かせた。拡大
750ccクラスのエンジンを搭載した「Z2」こと「カワサキ750RS」。「国内市場におけるバイクの排気量は750ccまで」という、当時の日本メーカーの自主規制を受けて開発されたモデルで、大排気量ながら軽快に吹け上がるエンジンフィールで人気を博した。
750ccクラスのエンジンを搭載した「Z2」こと「カワサキ750RS」。「国内市場におけるバイクの排気量は750ccまで」という、当時の日本メーカーの自主規制を受けて開発されたモデルで、大排気量ながら軽快に吹け上がるエンジンフィールで人気を博した。拡大

ライバル“CB”の存在がZを高みに昇華させた

1972年に登場し、世界中のライダーを熱狂の渦に巻き込むことになったのがカワサキの「900Super4」、通称Z1である。量産車として当時世界最高の性能を発揮し、ライダーたちを騒然とさせたマシンである。

1960年代、日本の二輪メーカーは世界に打って出るべくさまざまな挑戦を開始した。ホンダ、ヤマハ、スズキがロードレース世界選手権でチャンピオン争いをするようになったのもこの時期である。しかし、国内二輪メーカー最後発のカワサキは、ロードレースに注力せず、その目は別な方向に向けられていた。北米市場を意識した大型モデルの開発を進めていたのである。

カワサキは1967年に高い動力性能を発揮する2ストローク3気筒エンジンを搭載した「500SSマッハIII」を発表して大きな話題となったが、本命は別にあった。空冷4気筒エンジンを搭載したコード名「N600」の開発を秘密裏に進めていたのだ。ところが、このプロジェクトは1969年に大きな転換を迫られることになった。ホンダが一足早く「CB750FOUR」を発表してしまったからだ。CBの搭載していた並列4気筒736ccエンジンのパフォーマンスと存在感は、それまで主流だったツイン(=2気筒エンジンのモーターサイクル)をことごとく色あせたものにしたほどだった。

カワサキも当初は750ccクラスのマシンのリリースを考えていたが、二番煎じと取られるようなマシンを出すわけにはいかない。CB750FOURを超えるため、エンジンや車体のデザインを全面的に見直すことになってしまった。しかし、このことがバイクの完成度と性能を大きく向上させ、Zの伝説をつくり上げる礎になったことは間違いない。そして1972年、満を持してZ1が発売されることになったのである。

排気量は903ccでバルブ駆動方式にはDOHCを採用。パワー、メカニズム、クオリティーのすべてが、世界最高峰のマシンにふさわしいものだった。世界中のライダーたちはZ1に夢中になったのである。

翌1973年には、排気量を746ccとした「750RS」が国内販売され、「Z2(ゼッツー)」の愛称で親しまれることになった。車体は共通で排気量だけが小さくなっていたが、ボアとストロークを適正な数値に見直したことで、900ccクラスのZ1より高回転まで気持ちよく吹け上がるエンジン特性を実現。Zシリーズは国内でも熱狂的な支持を受けることになる。

Zを語るうえで忘れることができないのはレーシングシーンでの活躍だろう。高度なチューニングに耐える頑丈なエンジンはチューナーたちにとって格好の素材となった。さまざまなアフターパーツが誕生し、1970年代に世界各国で盛り上がったプロダクションレースや、全日本ロードレース選手権のTT-F1クラスでもZが大活躍したのである。

なぜ今もZ1が名車といわれているのか?

今もZ1の人気は衰えることがない。それは歴史的な背景や色あせることのない秀逸なデザインなど、さまざまな要因があるのだが、最大の魅力はやはり走りにあるのだと思う。実を言えば、この原稿を書いているライターの後藤も初期型Z1オーナーである。Z系のマシンを乗り継いで30年前にZ1を購入。以来その走りに魅了され、手放すことができずにいる。

基本設計が50年前のマシンだけに物足りない部分はある。ブレーキも利かないしサスペンションの動きも今ひとつ。ところが基本的な整備を行い、細かい部分を最新のパーツで多少リファインするだけで、見違えるようにイキイキと走るようになるのだ。エンジンは厚みのあるフィーリングと力強いトルクを発揮し、スロットルを開けると重厚な加速をしてくれる。4気筒すべての爆発が緻密に制御された昨今の4気筒のようなスムーズさはないが、体に響いてくるエンジンの鼓動感と排気音に酔いしれる。

当時としては大きなマシンを軽快に操れるように考えられたハンドリングは、現行マシンと比較しても遜色がないほど素直で乗りやすい。19インチのフロントタイヤを装着したビックマシンとしては、理想的なハンドリングになっていると思う。高速では安定性が不足すると言われることもあったが、そもそもストリートではそんな速度で走ることもないから気にもならない。

Z1は、特に実用速度域での操縦性が素晴らしく、ライダーの意のままにマシンが反応してくれる。軽快さとドッシリとした安定感が同居したこのハンドリングのおかげで、コーナリングはとても楽しい。今までZ1に乗り続けているのは、現行モデルも含めたなかで、自分が最も楽しいマシンだと感じるからなのである。

もちろん、最新のマシンを否定しているわけではない。信頼性や完成度の高さ、パフォーマンスには目を見張るものがあるし、厳しい環境規制対策を施したうえで、あれだけ高い性能を引き出していることは本当に素晴らしいと思う。ただ、バイクのパフォーマンスはライダーの技量や走る環境とバランスして初めて楽しめるもの。自分のライディングと使い方では、Zが最もバランスのとれたバイクだと感じるのである。

「Z1」に搭載される排気量903ccの4気筒エンジン。ホンダの「CB750」より排気量が大きいだけでなく、動弁機構にはSOHCではなくDOHCを採用。最高出力82PSを発生した。
「Z1」に搭載される排気量903ccの4気筒エンジン。ホンダの「CB750」より排気量が大きいだけでなく、動弁機構にはSOHCではなくDOHCを採用。最高出力82PSを発生した。拡大
大型のバイクでもハンドリングを楽しめるよう、吟味された足まわりも「Z1」の特徴。“フロント19インチ”のマシンとしては、いまだに理想的なハンドリングではないだろうか。
大型のバイクでもハンドリングを楽しめるよう、吟味された足まわりも「Z1」の特徴。“フロント19インチ”のマシンとしては、いまだに理想的なハンドリングではないだろうか。拡大
本稿のライターである後藤が所有する「Z1」。ノーマルのフィーリングを重視したファインチューニング仕様で、エンジンは「Z1000Mk2」の純正ピストンで1000cc化。カムはノーマルだが、特性を若干変えるためにバルタイを変更している。吸排気系にも手を入れており、キャブレターはミクニのTMR、マフラーはNGCとなっている。
本稿のライターである後藤が所有する「Z1」。ノーマルのフィーリングを重視したファインチューニング仕様で、エンジンは「Z1000Mk2」の純正ピストンで1000cc化。カムはノーマルだが、特性を若干変えるためにバルタイを変更している。吸排気系にも手を入れており、キャブレターはミクニのTMR、マフラーはNGCとなっている。拡大
リアショックはオーリンズの特注品。フロントフォークはスプリングをWPに変更しブルーサンダースにて内部パーツを加工。ブレーキはマスターシリンダーのみブレンボのラジアルポンプとしている。
リアショックはオーリンズの特注品。フロントフォークはスプリングをWPに変更しブルーサンダースにて内部パーツを加工。ブレーキはマスターシリンダーのみブレンボのラジアルポンプとしている。拡大
2017年12月にデビューした「カワサキZ900RS」。往年の「Zシリーズ」をほうふつさせるスタイリングとライドフィールが特徴で、発売から4年を経た今も、根強い人気を誇っている。(写真=三浦孝明)
2017年12月にデビューした「カワサキZ900RS」。往年の「Zシリーズ」をほうふつさせるスタイリングとライドフィールが特徴で、発売から4年を経た今も、根強い人気を誇っている。(写真=三浦孝明)拡大
排気量948ccの4気筒DOHCエンジン。最新の水冷エンジンでありながら、昔の「Zシリーズ」の重厚なエンジンフィールをよく再現している。(写真=三浦孝明)
排気量948ccの4気筒DOHCエンジン。最新の水冷エンジンでありながら、昔の「Zシリーズ」の重厚なエンジンフィールをよく再現している。(写真=三浦孝明)拡大
「Z900RS」は前後ともに17インチのラジアルタイヤを装着。モダンなハンドリングを実現しているが、同時に往年のマシンを思わせる“落ち着き”も併せ持っている。(写真=三浦孝明)
「Z900RS」は前後ともに17インチのラジアルタイヤを装着。モダンなハンドリングを実現しているが、同時に往年のマシンを思わせる“落ち着き”も併せ持っている。(写真=三浦孝明)拡大
1976年に登場した「カワサキZ650」。「Z1」「Z2」よりひとまわり小柄なモデルで、高い運動性能を発揮した。
1976年に登場した「カワサキZ650」。「Z1」「Z2」よりひとまわり小柄なモデルで、高い運動性能を発揮した。拡大
カスタムパーツやリプロパーツに加え、ノーマルの個性を犠牲にすることなく、性能を向上させる機能パーツがたくさん開発されているのも、「Z」系マシンの魅力のひとつ。自分好みのマシンに仕上げていく楽しみがある。
カスタムパーツやリプロパーツに加え、ノーマルの個性を犠牲にすることなく、性能を向上させる機能パーツがたくさん開発されているのも、「Z」系マシンの魅力のひとつ。自分好みのマシンに仕上げていく楽しみがある。拡大

旧ZオーナーはZ900RSをどう感じたか

カワサキは2017年12月に現代版Z1ともいうべき「Z900RS」を発売している。あの時は “Z1オーナー”として何度も試乗させてもらった。そして実際に乗ってみたら、予想していた以上にZらしさが再現されていて驚いた。感覚的に言えば空冷4気筒を思わせるトルク感やエンジンのフィーリングは期待していたものの10倍、いやそれ以上だったかもしれない。昔のエンジンの重厚さを、よくここまでつくり込んだものだと思う。

17インチのラジアルタイヤを装着しているから、ハンドリングは19インチバイアスのZ1とはまったく違う。それでも、フロントに落ち着きがあることもあって、Z1から乗り換えても違和感がない。新しいのに、なぜか旧Zオーナーがホッとするこの感覚……なんだろうと悩んでいて思いついたのは、Z1から数年遅れて発売されていた「Z650」、通称「ザッパー」だった。俊敏さを追求したザッパーをほうふつさせるフィーリングだったのである。デザインをオマージュしただけでなく、往年のZシリーズの魅力がどこにあるのか、しっかり考えてからつくられたマシンだったのだ。

Z1は自分にとって最高のマシンだし不満なところは何もないからZ900RSに買い換えようとは思わない。しかし、もしも何かトラブルがあって、Z1が手元から消えてしまったとしたら、今の状況でもう一度Z1を購入するのではなく、Z900RSを購入して自分好みのマシンに仕上げていく方法を選ぶのではないかと思う。名車Z1に代わることはできないが、Zに乗り続けたライダーの気持ちを、Z1とは少し違った方向性で満たしてくれるマシンになっているからである。

Z1は、生誕して半世紀を迎えようとしている。50年かけてバイクの性能は少しずつ向上し、いろいろなマシンが登場してきた。しかし結局のところ、ストリートバイクの基本はZ1で完成していたのだろう。各メーカーから発表されるいろいろな最新マシンを試乗した後で、自分のZ1に乗り換えてみると、いつもそう感じる。Z1誕生から50年目となる今年、性能ではなくバイクの楽しさがどんな風に変わってきたのか、あらためて考えてみたいと思う。

(文=後藤 武/写真=カワサキモーターズジャパン、後藤 武、三浦孝明/編集=堀田剛資)

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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