ソニーは、“自身の役割“をどこに見つけたのか EV参入に勝ち目がありそうな理由本田雅一の時事想々(1/3 ページ)

» 2022年01月22日 09時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 「ソニーが復活した」という声が聞かれ始めたのは、前社長の平井一夫氏が現社長(会長兼社長CEO)の吉田憲一郎氏にバトンタッチする数年前、2016年ぐらいのことだっただろうか。

 平井前社長には、どのように改革を進めていたのか、いかに歯を食いしばって幹部全員で改革をやり遂げようとしたのか、幾度となく話を聞く機会があったが、筆者は当時のソニーに“復活”という表現は適切ではないなとも感じていた。

 というのもソニーの平井改革は、ソニー内にあった事業価値を見直し、稼げる形を作っていくプロセスを作るものだったからだ。内部の軋轢(あつれき)を可能な限り排除し、むしろ縦割りだった組織の連携を強めて“力を出せる環境と組織”を作るというものだ。

 確かに収益性は高まった。しかし、かつての強いソニー、ユニークな存在だったソニーが復活したのではなく、正常に機能するように組織全体を整えたというのが、当時の率直な印象だった。

 だが、いよいよソニーグループ(旧ソニー)は、自分自身の役割を見つけたのかもしれない。

変化したソニーの存在意義

 筆者がソニーを取材し始めた90年代半ば以降、ソニーの絶頂期と感じたのは2000年ぐらいのこと。メディアのデジタル化に対応し、パソコン事業も上り調子でテクノロジー企業の多くがソニーとの協業を望んでいた。今のソニーは、その頃を大きく超える利益を上げるまでになった。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 古い話で申し訳ないが、当時、ソニー社長だった安藤国威社長がラウンドテーブルで、ソニーはエレキのジャンルで年間1000億円以上の利益をコンスタントに出せる企業としての力がある。そこを基本にITジャンルでも新しいエンターテインメントを創造するために投資をしている。事業としての基礎が異なる、といった趣旨の発言をしたのを今でも鮮明に覚えている。

 当時のソニーの“パーパス”、すなわち存在意義を振り返るなら、アナログ信号処理とメカトロニクス、それにミニチュアライズといった技術を基礎に築き上げてきたエレクトロニクス技術がそれに当たるものだった。

 あの時代の圧倒的なソニーの存在感をデジタル時代にどう生かすのか、あるいはネットの時代、クラウドの時代にどう生かすのか。自らの存在意義を知りながら、生かしきれなかったことで、その後、しばらくしてソニーの存在感は大きく下降した。

 収益のベースラインだったはずのエレキは成長の足枷とまで言われるようになり、本来、ソニーがいるべき場所には他のプレーヤーが存在していた。そのことを考えれば、収益力を正常化させただけでも偉業といえる。

 しかし、復活に向けて体制を整えていく中でも時代は変化する。復活に際して収益の柱となったイメージング、金融、ゲームなどの事業は、先達が残した事業である。映画やドラマ制作、音楽などのコンテンツ事業は“水もの”ともいえる領域だ。

 生真面目で理性的な吉田社長が、トップに就任してすぐに“パーパス”という言葉を使い始めたのも納得できるところだろう。ソニーが存在する意義、次の時代にソニーに求められるものは何なのか? を探し求めることが、就任以来のテーマだった。

“自分発見”からの新規事業展開

 吉田社長はまず、ソニーがどんな領域で社会に貢献できているのかを精査した。そのことは、自身が社長に就任して以来、繰り返しソニーの“パーパス”について話していたことからも分かる。

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