夢と言えば大して怖く無い話かも知れないけど
心霊スポット巡りでの経験を。
十年位前に友人五人と一緒に深夜の廃校に潜り込んだ。

いくら歩き回っても幽霊も妖怪も全然出ないし
何枚写メ撮影してもオーブ一つカスリもしないので
退屈もMAXになったので音楽室で持って来たシートと食料を広げて
酒盛りパーティーを始めた。

私は運転手では無かったので
ビールをたらふく呷って
ポテチやらビー玉やらグラタンやらイナゴの佃煮やら
ドックフードやら怪しいサプリやらの入った物凄い闇鍋を
豪快にコンビニのプラスチックスプーンがひん曲がる勢いで
胃袋に掻っ込んで皆の喝采と爆笑を得た。

そのせいか一時間もすると
酷い眠気に襲われた。

そこで夢を観た。

夢の中で私は
薄暗い廊下を一人で歩いていた。

歩く度にギィギィ…キュッキュッ…
という音のする古い料亭みたいな感じの
木造の廊下だが窓も無く薄暗い。

廊下のずっと奥に燈っている
小さな灯りを目指して歩いた。

ようやくその灯りの場所に辿り着く。

何時間も歩いていた様な気がした。

それは「根之國屋」と書かれている
古そうな提灯の灯りだった。

提灯を見ていると
何だか酷く心が安らぐ様な気持ちになった。

提灯の左右横には
二つの障子戸があった。

宴会だろうか?

賑やかな声が聞こえて来る
左の黒い和紙張りの障子戸を開けてみる

…途端に耳を劈く様な罵声が聞こえて来た。

「てめーコノヤロー俺が先に食おうと!」

「何だテメー!?殺すぞ!!」

「うるせぇんだよ!早く食わせろこの野郎ォ!」

「殺せ殺せぇ!」

何やらその部屋の客達は
皆馬鹿デカい食卓を囲んで食事をとっていたのだが、
和気藹々とは程遠い雰囲気の食卓だった。

余程腹に据えかねる事でもあったのか?

サラリーマンに主婦、老人、ヤンキーまで大勢居たが
皆一様に激昂を抑えられない様子で、
馬鹿デカくて長いけったいな匙を手に
紐で固定して持ちブンブン空を振り回して威嚇したり
相手の口にグリグリ突っ込んで歯が折れて
口からダラダラ血だらけになってたり
座布団で窒息させ様としてたりと
お互い取っ組み合いしながら奇声を発していた。

料理は豪華だが
食卓はガタンガタンと大揺れしており
お皿は地面に落ちてグチャグチャ状態。

部屋の隅っこの方では
小さい子供達が座布団で作った山に身を寄せ合って隠れ
ブルブル震えながら
目だけ隙間から覗かせ大人達を見つめていた。

とても御一緒しようという気持ちは湧いて来ない。

どこまでこじれればこんなスケールの大喧嘩になるのだろう?

結婚式に愛人でも乗り込まれたのだろうか?

地獄絵図だった。

「何?お前ら普通に食えねぇのかよ…
料理はこんなに美味そうなのに…
大人のガチ運動会とか頭イカれてるんじゃないか?」

そう吐き捨てると
そいつ等全員が一斉に私を睨んで来た。

顔は真っ黒だが目だけは真っ赤だ。

よく観ると皆角が生えている。

私は怖れをなして戸を閉めた。

閉めた戸口には小さく
「地獄」と彫られていた。

ゾッとして手を離した

もうその場を去ろうかとも思ったが
何故か好奇心からか右の戸も開けてみる事にした。

金箔が塗された白い障子戸だ。

戸口部分に目を凝らして見るが
木に彫られている文字が磨滅している。

「ありがとうございます!」

「アハハハハハ」

「凄いですね!」

一転して老若男女和やかな雰囲気。

「ここでいいか」

そう思って私はその座敷に入った。

先程の部屋と同じく
食卓には豪華な料理がこれでもかっという位並んでた。

空き座布団は無いかと見回すが
残念ながら満員。

観察していて妙な事に気付く。

皆手足を紐で縛られていて
食卓の足に固定され
手にはやはり大きな匙を紐で括り付けられていた。

食卓はそんな私を気にも留めず匙が進む。

「ささ、どうぞ!」

「やーありがとうございます!」

「こっちの茄子めっちゃ美味しいですよ?」

よく観察していると
匙が長すぎて自分の口に運べないのか
隣の客に食べさせて貰ってたり食べさせたりしていた。

遠くの皿の料理は
匙でリレーしながら運び助け合っていた。

成程!頭良いな。

こうすれば遠くの皿も食べられるし
喧嘩にならないのか!

お隣の馬鹿共とは偉い違いだな(苦笑)

感心しながら食卓の様子を眺めていると
一人の少女に目が留まる。

皆と同じ様に座っているが
手足は拘束されていない。

匙も持って無い様だった。

黒い和服姿のオカッパ頭の少女だ。

近付いていって顔を覗き込んで話し掛けた。

「おじょうちゃんは食べないの?」

返事が無い…

そして角があり
赤い目をしている。

黙って料理を見つめていた。

「お隣から逃げて来たの?
お怪我は無い?」

返事は無かった。

何だか上手く説明出来ないが、
その娘がいたたまれなくなり
どこかに余っている匙は無いかと食卓を探し始めた。

が、無い。

周囲を見回す。

少女に食べ物を与え様とする者は
一人も居なかった。

(横の奴からちょっくら分獲るか?
でも隣みたく乱闘に発展したら嫌だしなぁ…
どうする?)

途方に暮れて
ポケットに手を突っ込む。

「ん」

何かに触れた。

取り出してみるとソレは
さっきのコンビニスプーンと弁当箱の輪ゴムだった。

うーん、でも、私が使った後のだし汚いかなぁ?

「!」

赤い目の少女がこちらをじっと見つめていた。

信じられない!
という様な驚きの顔をしていた。

「…使う?」

コクリと強く少女は頷いた。

スプーンを輪ゴムで固定してあげると
少女は涙を流しながら

「いただきます」

と言うと
手を合わせた後に匙で料理を掬って
私にあーんをしてくれた。

何度も何度も私の為に掬ってくれた。

急に一斉に視線を刺して来た
周囲の人間の赤い目が気になったが、
嬉しいのと恥ずかしいのと
変態紳士的興奮でアドレナリンが出てるのか
全然気にならない。

テーブルに置いてあった醤油皿を取り
横のデブBBAの味噌汁の中に
醤油をブチ捨ててやったら
気色悪い赤い目で睨んで来たが気にしない。

逆に不可抗力を装い
そいつの足の爪が割れるかって位に
思いっきり膝で体重を掛けて
指を踏みつけてやった。

BBAはまたニコニコ顔に戻って
顔を逸らした。

刺さっていた周囲の視線も逸れて行く。

けっ今更許さねーよ!

「パキパキ…」

BBAの爪の割れる音がした。

おーっしクリティカルヒット!
と心の中で歓喜した。

そして醤油皿で美味しそうなシチューを掬って
フーフーしながら少女の口へ運んであげた。

少女は涙を流し体を発光させながら

「おいしい…」

と言った。

その光を浴びて
周囲の客達の動きが止まり
体が石になっていった。

そして私の体も…

何故か恐怖心は無かった

そこで目が覚めた。

全員音楽室で酔い潰れていて
一番最初に目覚めたのは私だった。

一体何なんだろうねこの夢って。

夢なんてすぐ忘れるのに
これだけは印象に残ってた。

【意味怖】意味がわかると怖い話の最新記事